ドイツでも原発回帰の声が多数派に
11月中旬にドイツに出張し、生成AIを支える将来の電力供給、ドイツの原発の状況について関係者と議論した。
福島第一原発事故の直後、ドイツ政府は8基をただちに閉鎖し、残り9基の段階的廃止を進め、22年末の脱原発を決定した。
当時英BBCが主要国を対象に実施した世論調査では、日本では「原発を維持し新設はしない」が57%、「原発の即時廃止」が27%だったが、ドイツでは「原発の即時廃止」を支持する比率が52%と過半数を超えた。この世論が脱原発を後押しした。
しかし、15年の間に事情は変わった。最大の出来事は、ウクライナの戦争だ。エネルギー価格は大きく上昇し、ロシア産化石燃料、特に天然ガスに大きく依存していたドイツのエネルギー市場は大きな影響を受けた。
家庭用平均電気料金は、21年平均の1キロワット時(kWh)当たり32.8ユーロセントから22年には日本の家庭用料金の2倍を超える円換算80円超の46.3ユーロセントへ41%上昇した。産業用平均料金は21.5/kWhから43.3/kWhと2倍を超える上昇になった。
今、産業用料金は戦争の前の水準に戻ったが、家庭用電気料金は、固定価格買取制度に基づく負担額(開戦前1kWh当たり6.5ユーロセント)を、開戦後に電気料金から税負担に変更したにもかかわらず、開戦前から約20%上昇している(図-1)。
料金高騰は、原子力発電に対する世論を変えた。23年4月に脱原発を果たしたものの25年4月のドイツ公共放送網(Deutsche Welle)の世論調査では55%が原発回帰を支持、反対は36%に留まった。分からないは9%だ。
世論は変わったものの、産業団体の独エネルギー・水産業協会(BDEW)は閉鎖された原発の再稼働を技術的に無理な課題とし、実現は不可能としている。
独産業連盟(BDI)は、世論は原発回帰を支持するものの、現連立政権を構成するキリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SDP)の間で原発に関する意見が異なり、政治的に難しい課題なので政権は取り上げないとみている。
一方、生成AIの利用を支えるデータセンター新設を中心にした電力需要増はドイツでも予想されている。国内で原発の活用を進めなくても、周辺国が新設を進めるので、電力輸出入を通し原発の電気を利用できるとの考えもあるようだ。
電力需要増を支える原発設備
多くの先進国では、電力需要は伸び悩んでいる。省エネの進展、コロナ禍の影響、エネルギー多消費型製造業の海外移転などが影響している。
図-2が過去10年間の主要7カ国(米、加、英、伊、独、仏、日)の電力需要の推移を示している。
そんな中、米国の需要は伸び始めた。23年の4兆2700億kWhは24年4兆4000億kWhに3%増になった。


