「合意に基づく行動は全てマレーシアの利益と法律に基づいて行われることは明確だ」、「協議過程があり、もし我々の利益にならないのであれば我々は米に従わない」とも述べた。
ザフルは、米中間の最近の関係改善によって、これまでより摩擦は少なくなるはずだ、とも主張した。この主張は非常に楽観的に思える。しかし、サプライチェーンの転換や新技術の採用を柔軟にできる機敏な経済国家であれば、貿易冷戦の中でも、どちら側にも縛られない状態を維持できるだろう。
米国はマレーシアの部品輸出を阻止することができるが、それは米国自身の半導体・技術産業を弱めるだけだ。そして、米国が東南アジア全体を一度に威圧しない限り、製品は流通していくだろう。
最近メキシコが米国の意向で自動車輸入に50%関税を提案した時に中国は激怒したが、それとは対照的に、今回のトランプによるマレーシアとカンボジアとの合意に対し中国は驚くほど沈黙している。
ザフルは、「我々は10月26日に米国との合意に署名し、27日には中国・ASEAN協定に署名した」と言った。繁栄と効率の観点からみれば、恣意的な力で世界経済を分断するのは明らかにマイナスだ。
しかし、これらアジアの機敏な政府は、米中対立の中でも、経済的衛星国になることはないだろう。それは快適ではないが、無力な状況でもない。
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トランプも市場には抗えない
10月26日、トランプはクアラルンプールでマレーシア、カンボジアと貿易協定に合意した。ベトナムおよびタイとは、今後の交渉の枠組みにつき合意した。
マレーシア等との合意は、関税削減だけでなく、米国と相手国が守るべき輸出管理や経済制裁、投資審査、迂回輸出など国家・経済安全保障に係る広汎な権利義務規定を含む、本格的な貿易協定の体裁をとっている(最近米国が多用する大雑把なファクトシートと呼ばれる文書のようなものではない)。
マレーシアとの協定では、米国が対マレーシア相互関税を19%とする(カンボジア19%、ベトナム20%、タイ19%を維持)。特定品目に対する相互関税は免除する。
他方、マレーシアは、米国からの工業品・農産品に対する関税を削減し、米産品の市場アクセスを拡大する等としている。また、知財、労働、環境、電子貿易等についても規定。中国を念頭に、マレーシアが米の国家安全保障や経済安全保障上の措置を減殺しないようにマレーシアは同様の措置あるいは必要な措置を執る義務も規定している。
確かに、マレーシアとの合意文書を見ると、これは不平等条約ではないかと言いたくもなる。しかし、実世界の実利確保のためには致し方ないことも現実である。
