2025年12月14日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月5日

 上記論説での、マレーシアのザフル通産相の発言は、したたかで自信さえ伝わってくる。米・マレーシア貿易協定合意の翌日にはASEANは中国との間で改訂自由貿易協定(FTA(CAFTA 3.0))に署名した。世界経済はトランプの無謀な政策により不必要な荒波をかぶっているが、市場のダイナミズムは依然としてとうとうと流れている。

 ビーティが、米国とて市場のダイナミズムを抹消できない、それをすれば米国が損をするだけだ、と確信していることが見て取れる。それはよく理解できる。

 結局、トランプの反乱は、無謀な自傷行為で終わるのではないか。今大事なことは、市場を大事にして難局を乗り切るしかないとの楽観主義を持つべきだということではないだろうか。

 世界の貿易秩序を破壊し続けるトランプ政権が、マレーシアとの合意の中で世界貿易機関(WTO)に言及するのは皮肉だ。トランプ政権の御都合主義だ。

 報道によれば、トランプ政権は10月に2024年WTO分担金の滞納額をこっそり払い込んだという。さらに、14日、コーヒー豆や牛肉、バナナなど輸入に依存する220品目を超す農産物について、相互関税を撤廃する大統領令に署名した。

 WTOの譲許約束を無視して、あらゆる産品にトランプ関税をかけてきたトランプだが、インフレの圧力と市場の力に降参したのか。それとも、来る最高裁の判決が違憲となることを予想してか。

貿易合意にマレーシア国内で反発

 米・マレーシア貿易合意については、マレーシア国内でも反発が広がっているという。マレーシアが「米国の重要な利益を損なう国」と貿易・経済協定を結んだ場合、米国は協定を破棄して当初の相互関税を戻せることが規定されている。米国が第三国に対して国家安全保障上、経済安全保障上の措置を執った場合にはマレーシアも当該国に相応の措置を執らねばならないとも規定する。

 かかる「毒薬条項」は、第1次トランプ政権が18年に結んだ米墨加貿易協定の中に「非市場経済国」と自由貿易協定(FTA)を結ぶ場合、いずれかの国は協定から離脱できるとした条項に先例がある。しかし甚だしい時代錯誤だ。

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