2025年12月8日(月)

Wedge OPINION

2025年12月8日

地球レベルの急激な変化に
適応できない国際組織

 半導体と通信革命がもたらしたほぼコストのかからない完全なコネクティビティー(接続性)により、人類の関係性はもはや理解を超えるほどに形を変えた。いまだに過去に囚われている政府、社会・政治組織の思考は追いついていない。

 知的、哲学的な言葉でなく、ありのままの事実として変化の規模を示すために言えば、半導体メーカーの草分けだった米フェアチャイルドは64年に一つの半導体チップにトランジスタ(半導体素子)を4個搭載できたと伝えられている。これに対し、今の台湾の最先端半導体メーカーは一つの半導体プロセッサーに110億個搭載できるようになった。

 これはスピードと接続の両面で人類史において比類のない変化であり、ごく一部を除く人類80億人のほぼ全員に影響を与えている。その結果、20世紀のほとんどの国際組織が問題を抱えることになった。

 数々の地域紛争が勃発し、今も各地で吹き荒れているものの、第三次世界大戦は起きていない。だが、時間の経過と技術は絶大な被害をもたらした。即時対応と極端な立場が支配する時代にあって、中道の精神や国同士の妥協、デリケートな外交はほぼ消え去った。〝トランプ王〟の宮廷では完全に消失したといっていいだろう。

 一方、国連はその中核をなす安全保障理事会の旧態依然とした構造のために機能不全に陥っている。ロシアと中国が常任理事国5カ国のうちの2カ国として、あらゆる決議に拒否権を行使できるからだ。

 同時に、多くの国の債務水準が過去最高となり、世界の金融情勢が再び信じられないほど不安定で脆弱になっている(借り入れを増やすと即座に債務の利息と負担が増えるため、各国の債務は実際、不可能なレベルに達している)。そして軍縮協議は、ほぼすべてが打ち切られた。拡散を防ごうとするあらゆる努力にもかかわらず、核兵器の開発は今後拡散していく見通しだ。

 経済面ではWTOが行き詰まっている。大半の国からの輸入品の関税率に対する米トランプ大統領の不規則な命令から生じる損害を回避するために、多くの貿易国が新しい暫定組織を立ち上げることを余儀なくされ、障害を迂回する方法を模索している。

 ほかの分野へ目を向けても、法と戦争そのものの規律が日々破られていると感じる。

 地域のレベルでも同じように「世界的な逆風」が吹いている。米国が支援を打ち切ろうとしているとの不安から、NATOは厳しい圧力を感じている。その結果、例えばフィンランドなどのロシアの隣国が不安げに国境地帯の警備の人員と地雷原を強化している(かつて期待されたこととは逆の展開だ)。

 今や英国が抜けたEUは国内総生産(GDP)の世界比率でみても弱体化したと言わざるを得ないが、それでも急激に変わりゆく状況の中で、まだ何とか結束を保っている。米国が冷たくなり、欧州が自らの防衛にもっと資金を出すべきだと主張している一方で、引き続き好戦的なプーチン大統領が率いるロシアはある意味で欧州を結束させる役目を果たしている。

 改革され、中央集権度が下がり、地域色が強まる欧州は、解釈次第では、世界の貿易が今より小さく、より地域的で専門特化されたブロックへ細分化されていく未来に合致すると考えられる。貿易に占めるサービスの比重がますます高まるため、地理的な距離は以前ほど問題にならない。貿易のグローバル化の「終焉」といった無駄話が取り沙汰されているが、実際には、たとえ新たな形と装いになったとしても国際貿易はかつてないほど大きいのである。


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