2025年12月8日(月)

Wedge OPINION

2025年12月8日

 ただし、状況は急速に前進し得るが、同じくらい急速に後退することもある。現時点では、イエメンの親イラン武装組織フーシ派によるテロの脅威と通過する船舶に保険をかけられるかどうかをめぐって、紅海などの中東貿易の大動脈(海洋貿易・交通)が部分的に閉ざされている。ペルシャ湾に入る主要ルートにも似たような危険が存在する一方、アフリカの喜望峰を経由する遠回りの代替ルートも危険が高まっている。

 この完全に荒れ狂ったような情勢が各地でカオスとさらなる暴力に発展し、負の連鎖を呼ぶようなことは防がなければならない。

 そのために我々にできることはあるのだろうか。

民間部門から公的部門へ
過度な党派色は避けよ

 「できることはかなり多い」というのが、その答えだ。ただし、十分な資格を持った優れた医師が行うように、症状が正しく認識され、時間内に正しい治療で対処することが条件となる。理性と常識の時代に立ち返るための出発点(チャットボット任せではなく、人間の思考に基づく判断による)については、すでに述べたが、課題はそれにとどまらない。各分野での〝症状〟の例を挙げよう。

◎世界保健機関(WHO)の改革なしでは、完全で正直な国際協力を通して次のパンデミック(感染症の大流行)を制御するために必要な実動部隊が存在しない。

◎環境面で生き物と植物の双方に影響を与えているすべての動きを取り締まる、尊敬されている強い当局が存在しなければ、気候変動対策への同意と信頼が崩れ去る。

◎難民と移民に関する法令(51年に採択された国連難民条約とその規約など)を刷新する強力な機関が存在しなければ、ルールというダムが決壊し、合法・非合法を問わず、暴力が人の移動を支配することになる。

◎海洋法や大気圏内外の宇宙を司る法を支える機関が存在しなければ、米国の西部開拓時代のような低い標準がまかり通るようになる。

 ポピュリズム(大衆迎合主義)と多極性(対立する複数の勢力の「極」から出てくる反対意見の強烈な主張)はデジタル時代の産物であり、その増幅要因でもある。この潮流を元に戻すことができると考える人は現実から目を背けている。激しいポピュリズムに書類仕事の山とプロパガンダで対抗しようとすることはできない。戦う相手に確かな形が何もないからだ。

 ポピュリズムは無数のスマートフォンと編集がお粗末な(実際、ほとんど編集されてもいない)ニュース報道の雪崩から生まれ、今ではスマホを持つ人が誰でも、こうしたコンテンツをボタン操作一つで、ほとんどお金をかけずに拡散できる。自分で創作したり想像したりする必要はない。情報が洪水となって、次々と手元に流れ込んでくるからだ。しかも責任を伴わない形でだ。


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