新しい環境に適合し始めたインド
つまり、インドは新しい環境に適合する必要が出始め、徐々に適合し始めたのである。新しい環境とは、ロシアのウクライナ侵略とトランプ政権の誕生に起因するものだ。
ロシアのウクライナ侵略が起きる前は、インドは大人気だった。中国対抗しているのはインドとみられていたから、安全保障でインドは大人気だったし、グローバル経済の中でインドは新たな成長市場として着目され、グローバルに活躍する優れた人材を輩出する国としても注目されてきた。
ところが、それがすべて変わりつつある。ロシアのウクライナ侵略以降、西側諸国は、インドがロシアに対して友好的中立の姿勢を見せることにいら立ってきた。そして、トランプ政権が誕生すると、グローバル経済そのものを変え始めた。
トランプ政権は、これまでのグローバル経済のルールでは、中国の方がアメリカより成長し、アメリカに追いつきつつあるから、そのルールそのものを変えようとした。そして、できるだけ関税をかけないようにするグローバル経済のルールに代わって、各国に関税をかけまくる政策を採用したのである。
しかも、トランプ政権は、アップルがiPhoneの生産を中国からインドへ切り替える計画にも不快感を示した。中国から工場を移すのはいいが、インドではなくアメリカへ移すべきであるという考え方である。
さらに、トランプ政権は、インドからの高度な人材に対しても、受け入れのハードルを上げ始めている。アメリカで働く高度な技術を持つインド人はH-1Bビザをとって働くのだが、トランプ政権は、その取得に際し10万ドル払うようルールを変えた。今や、バンス副大統領も、妻のウーシャ氏に対しても、ヒンドゥー教から改宗してキリスト教徒になってくれたらいいと、述べるまでになっている(ただ、この場合は、妻の意見を尊重するといっていて、強い要求ではない)。
インドにとって、アメリカは最大の貿易相手国だった。一時期、中国が最大の貿易相手国だったのを、モディ政権の下で、徐々にアメリカに変えてきたものでもあった。しかし今、その政策は、無理になり始めている。
つまり、インドは、長年の古い友人ロシアを頼れず、新しい友人であるアメリカも頼れず、長年の敵である中国のことはまったく信用できない。どう対応するか、戦略の転換を迫られている。
しかもグローバル経済の恩恵を受けて経済を成長させる政策は、もはや、かつてのような経済成長をもたらさないかもしれない。インドの高度な人材を他国にどんどん出す政策も、どこまで可能なのか、疑問が生じつつある。
