2025年12月12日(金)

「最後の暗黒大陸」物流の〝今〟

2025年12月12日

サプライチェーン全体に波及する「構造疲弊」

 ドレージ輸送の疲弊は個別の問題の集合ではない。高齢化、稼働台数の減少、並び時間の長期化、低価格構造、価格転嫁の遅れが互いに連鎖し合い、現場の持続可能性をむしばんでいる。単なる一時的なボトルネックではなく、サプライチェーン全体にわたりじわじわと進行する“構造疲弊”と言うべき状況である。

 その象徴が、現場で起きている負のスパイラルだ。ゲートが渋滞すると、ドライバーは動けなくなる。動けなければ回転率は落ち、収益は悪化する。収益が悪化すれば処遇改善や設備投資に回す余力がなくなり、結果として若者は入ってこない。ドライバーが減れば、港から貨物を引き出すことはできない。現場の努力だけでは断ち切れない循環が固定化しつつある。

 しかし最大の問題は、表面上はまだ「回っているように見える」ことだ。港湾ゲートの長期渋滞という“表層的な摩擦”の裏で、担い手の高齢化と収益力低下という“深層的な構造劣化”が進んでいるにもかかわらず、それが国全体の危機として十分に共有されていない点こそが、問題である。

迫られる港湾物流構造の再設計

 では、どうすればよいのか。まず取り組むべきは、目の前の現場が抱える不合理の解消である。

 ゲート予約制度の細分化やリアルタイム混雑情報の提供、空コンテナ返却動線の最適化、荷主・倉庫との時間調整によるピーク平準化──こうした改善は、現場の回転率向上に確かな効果をもたらしている。加えて、港湾ごとの混雑KPIの公開など、都市港湾の運用改善に向けた情報基盤整備も不可欠だ。

 中期的には、制度面での歪みもただすことが求められる。多重下請け構造の是正、価格転嫁の実効性確保、燃料サーチャージの透明化・標準化、港湾内動線の整理・統合といった施策により、現場を圧迫する構造的負荷を軽減できる。「名ばかり役員」による規制逃れなど、法制度の不備に起因する不健全な競争環境は早急に是正されるべきだ。

 重要なのは、長期的には日本の物流構造そのものを見直す段階に来ているという認識だ。

 海外主要港では、港湾内にトラックを集中させないための「インランドデポ(内陸コンテナ基地)」が整備され、港で降ろしたコンテナを鉄道で内陸に一括輸送する方式が取られている。港は荷役に専念し、混雑の大半は郊外で処理するという“港外分散型”の発想だ。

 もちろん、日本では港湾の立地条件や都市構造、港湾労働との調整など、実現に向けた課題が山積しており、鉄道引き込みや大規模デポの整備は簡単ではない。だが、「できない理由」を並べて議論を止める段階はすでに過ぎている。港湾にすべての負荷を集中させる従来モデルは、いずれ限界を迎えることは火を見るよりも明らかだからだ。

 今必要なのは、危機の兆しに目を向け、“次の世代に持続可能な物流構造を渡すための再設計”に踏み出せるかどうか。対応の遅れが、やがて“港からモノが動かなくなる日”を現実のものとすることは想像に難くない。この問題は先延ばしにできる時間は残されていない。

(bee32/gettyimages) 
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