2025年12月12日(金)

「最後の暗黒大陸」物流の〝今〟

2025年12月12日

物流供給の転換点イメージ

 この構造問題に加え、現場には複数の深刻な要因が重なっている。

 まず、ドライバーの時間外労働規制の厳格化(2024年問題)により残業が抑制され、ドライバーの収入が減少している。複数の運送会社の経営者が「インバウンド需要で高収入が見込め、拘束時間が少ないタクシー業界へ転職するドライバーが出ている」と語る。

 さらに深刻なのが、東京港に象徴される港湾ゲートの「並び時間」長期化だ。90年代は30分〜1時間が一般的で、1時間超えは例外だった。しかし現在は冒頭でも示したように、平日午後を中心に2時間以上の並びが常態化するターミナルもあり、日々の配車計画を狂わせている。

 ドレージの収益構造は、港で実入りコンテナをピックアップし、納品後に空コンテナを返却して初めて売上が立つ。しかしゲート待ちに数時間奪われればその日の計画は崩壊し、労務時間だけが積み上がる。

 ある運送会社社長は「昔のドレージは手積み手卸しもなく、それでいて頑張れば月60~80万円稼げる“駆け込み寺”のような職種だったが、今は時間外労働の規制も厳格化され稼げなくなっている」と語る。

進まない価格転嫁

 経産省「価格交渉促進月間フォローアップ調査」(2025年3月)によれば、トラック運送は全 30業種中で価格転嫁率が最下位。原材料費・エネルギー費・労務費のいずれを見ても、他産業に比べて転嫁が大きく遅れている。

 背景には、小規模事業者では営業担当がおらず、配車担当が値上げ交渉まで兼務しているケースもある。日々の業務に追われそもそも値上げ交渉ができていないケースもある。また、値上げができたとしても、物流特有の多重下請け構造により値上げが末端まで届かない構造的問題がある。

 さらに、運送事業者間の競争も価格転嫁が進まない理由の一つだ。現場からは「運送事業者の中には、実態はドライバーとして働いていても形式上“役員”という会社がある。役員だと残業時間規制の対象外になるため、2024年問題の影響をほとんど受けず、規制を順守する我々より低いコストで運行できてしまう。こうした会社とも同じ土俵で戦わないといけない」という声も聞かれる。

 これは行政処分例としても確認される“名ばかり役員”の慣行であり、規制逃れを可能にすることで健全な競争環境を損ねている。規制を守る事業者ほど不利になるという逆インセンティブが、価格適正化の遅れに拍車をかけている。


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