そこで6月14日、一部の国内新聞紙は、中央テレビ局が流した小組の会議中の映像をもって列席者の顔ぶれを確認してリストを作って掲載した。そこで確認された「小組会議」の列席者の中に、経済関係の全閣僚以外では中国人民解放軍の房峰輝総参謀長の姿もあった。
どこの国でも同じだが、中国の場合、解放軍は普段、国の経済の運営に関与していない。軍の幹部は本来、中央の「財経会議」に顔を出すような人物ではない。たとえば何らかの特別な理由で軍幹部が経済関連の会議に出席することがあっても、軍事予算と関わりを持つ国防相や軍の物資供給を司る解放軍総後勤部長が参加するのが普通であろう。しかし解放軍の総参謀長はその名の通り、軍の作戦計画や遂行を担当する人物であって、国の経済運営とはまったく関係のないポジションである。
ならば何故、房峰輝氏は堂々と習主席主催の「財経会議」に出席していたのか。
「掘削の継続」を堂々と宣言
この疑問に対する一つの答えは、5月15日の中国とベトナムとの紛争に関する房峰輝氏の際どい発言である。
周知のように、今年5月初旬に中国がベトナムとの係争海域で石油の掘削を断行したことが原因で、中国海警の船舶とベトナム海上警察の船舶が南シナ海の西沙諸島周辺海域で衝突し、中越関係は今でも緊張が続いている。実は上述の房峰輝氏は中越紛争の拡大にも一枚噛んでいる。
5月15日、訪米中の房峰輝氏は、ワシントンの国防総省でデンプシー統合参謀本部議長と会談した後の共同記者会見でベトナムとの紛争に言及して、「中国の管轄海域での掘削探査は完全に正当な行為だ」とした上で、「外からどんな妨害があっても、われわれは必ずや掘削産業を完成させる」と宣言したのである。
実はベトナムと争いが表面化して以来、中国側の高官が内外に向かって「掘削の継続」を宣言したのはそれが初めてのことだが、この宣言は中国の外交部からでもなければ掘削を実行している中国海洋石油総公司の管轄部門からでもなく、直接関係のない軍の総参謀長から発せられたことは実に意外である。
中国の場合、軍の代表者が外国との外交紛争に関して「中国軍として中国の主権と権益を断固として守る」と発言するのは普通である。あるいは掘削の一件に関して、もし房氏は「中国軍として掘削作業の安全を守る決意がある」と語るならばそれはまた理解できる。しかし一軍関係者の彼が、あたかも政府そのものとなったかのような口調で「掘削の継続」を堂々と宣言するとは、それはどう考えても越権行為でしかない。つまり、本来ならば中国政府の行う掘削行為を側面から支援する立場の軍幹部、政府的行為の主体となって政府に取って代わって方針を表明した、というところに大いに問題があるのである。