軍の総参謀長が「掘削を継続する」と宣言すれば、その瞬間から、中国政府や外務省はもはや「止める」とは言えなくなる。つまり、捉えようによっては、房氏の「掘削継続発言」は中国政府のいかなる妥協の道をも封じ込めてしまい、中国がこの問題でベトナムと最後まで対立しなければならないような状況を作り出したわけである。
実際、6月18日に中国外交担当の国務委員楊潔篪氏は「問題解決」と称してベトナムを訪問した際、中国側が「掘削継続」の強硬姿勢から一歩たりとも譲歩せずにして双方の話し合いが物別れとなった。つまり楊氏のベトナム訪問の以前から、まさに前述の房氏の「掘削継続発言」によって、中国政府の基本方針はとっくに決められた、ということである。
だとすれば、習近平政権の政治と外交の一部が既にこの強硬派軍人によって乗っ取られた、と言っても過言ではない。そして今月、同じ房峰輝氏という人物は、本来なら軍とは関係のない「中央財経会議」にも出席しているから、軍人の彼による政治の介入はますます本格的なものとなっていることが分かる。
勿論房氏の背後にあるのは軍そのものであるから、軍がこの国の政治を牛耳るという最悪の事態がいよいよ、目の前の現実となりつつあるのである。
そして、党内おいては「石油閥」との死闘を繰り広げながら(前回の記事参照)、共青団派によって追い詰められ、おまけに軍人にまで政権を乗っ取られそうな今の習近平政権。一体どのような結末を迎えるのか、まさに今後における中国政治の最大の焦点となるのであろう。
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富坂聰・石平・岡崎研究所
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