最も落胆させられるのは、バイデン戦略がロシアの残虐で一方的な対ウクライナ戦争を糾弾したのに対し、トランプ戦略は一言もロシアを非難していないことだ。ウクライナが「存続可能な国家として生き残ること」は支持しているが、ウクライナの国境の回復や民主主義の維持や安全保障については何も言わず、単に「ロシアとの戦略的安定の再構築のために...ウクライナにおける敵意の速やかな終了」を呼び掛けている。
プーチンはこの曖昧な語句や、NSSが北大西洋条約機構(NATO)の拡大を否定しロシアの要求を認めていることを喜ぶだろう。実際、プーチンの報道官は、NSSは「我々のビジョンと大筋で一致する」と言っている。
この奇妙な文書はロシアの違法な破壊行為には沈黙する一方、欧州については、「トランプ政権は多くの欧州の不安定な少数与党政府と意見が合わない。彼らはこの戦争について非現実的な期待を抱き、また民主主義の基本原則を無視して野党を弾圧している」等、酷いことを言っている。どうやらトランプ政権はロシアが始めた戦争が続いているのは欧州のせいで、欧州が態度を変えないのは邪悪なエリートが国民の意思を無視しているからだと言いたいようだ。
しかし最近の世論調査によれば、欧州の大多数の人々はウクライナを支持している。NSSの欧州に関する部分は挑発的な極右のSNS投稿者が書いた文書のようで、欧州は「文明の消滅」に直面し、「遅くとも数十年内にNATO諸国の一部は国民の過半数が非欧州人になる」、つまり非白人になると警告している。
そして欧州連合(EU)は「政治的自由」を弱体化させ、「自由な言論」を検閲し、出生率も低下させたと非難し、「我々の目標は欧州が現行の路線を正すのを助けることだ」と言っている。米国は明らかに欧州の極右ポピュリスト政党を支援することでこれを達成しようとしている。
欧州首脳らは米国がウクライナを「裏切る」可能性があると懸念しているとの報道があった。NSSがこうした懸念を和らげることはない。NSSは米国がもはや自らを自由世界のリーダーとは見ていないことを明確にした。
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欧州からの撤退の前触れか
Max Bootは、発表された米国の国家安全保障戦略は米国が自らを自由世界のリーダーと考えていないことを示していると指摘している。Bootはその論拠を明示しているが、その通りである。
