「緊急銃猟制度は、正直少し期待外れでもあった。市街地に出没したクマは大抵、動き回る。一定の範囲内にいる住民を避難・退避させ続けることはほぼ不可能という感覚がある。住民の避難は警察が全て対応を担うなど、形を変える必要がある」
経験なしに技術は得られない
今の日本に欠けている議論
そして何より、クマを撃つ能力のあるハンターの高齢化と人材不足は深刻だ。前出の藤本さんはその危機感をこう語る。
「今一番求められていることは、若手ハンターの育成に尽きる。
クマを狩る技術は、『実践』の中においてのみ身につくものだ。
今回、自衛隊や警察の銃器対策部隊が動いたなら、来年以降も継続的に、現地でクマと対峙したり、地元のハンターと連携したりする経験が必要だ。そうして初めて住民に安全がもたらされるはずだ」
田澤さんも思いは同じだ。
「私もクマを撃つまでに約10年かかった。机上での教育も大切だが、やはり、経験が一番だ。
現場での場数を踏めば、例えばあそこのやぶに潜んでいる可能性が高いだとか、ある程度の展開が読めるようになる。
撃つのも『経験』だ。昔、遠距離からライフル銃でクマを撃ったとき、クマは数百㍍走った先で力尽きた。あとで解体すると、弾は確かに心臓を貫通していた。
2人がかりで散弾銃を何発も撃ち抜き、約20発目でようやく仕留めたということもあった。
軽い弾ではクマには通用しない。シカとクマとでは弾頭も火薬量も変える必要があるし、まずは試射しなければならない。こうしたことも、経験なしには習得しえない」
加えて、昨今、議論の多くが「クマが出た後」のことに終始している印象がある。「クマが出る前」に何ができるかということこそ熟考すべきだろう。
柿の木やごみなどの誘引物の除去や、山と地続きでクマが身を隠せる場所の除去など、人間側で講じられる対策は徹底した上で、「狩猟期の前倒しや鳥獣保護区の見直しなど、再考の余地がある決まりもまだある」(藤本さん)。
また、今の日本はクマの「駆除」に必死なあまり、「獲った後」の視点がすっぽりと抜け落ちてしまっている。「大切な命をいかに生かせるか、という議論が発展しないことに違和感がある」(田澤さん)。
その場しのぎの弥縫策では、クマとの軋轢は解消できない。人とクマ双方の暮らしを守るためにも、持続可能な対策が急がれる。
