2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2014年7月3日

 筆者は、レビュー対象となった個々の研究は殆どが立派な論文であり、科学の規範に従ってデータを慎重に取り扱い、方法論の限界や結果の不確実性などが注意深く記されていると信じている。そして、第2部会報告を本文まで読み込むと、多くの重要な研究成果がまとめられており、とても勉強になるし、数年の長きにわたって辛抱強くレビューをした著者団の仕事については感謝し尊敬する。ただし、それが要約にまとめられる過程において問題が生じたのではないかと疑っている。

 なお、これもRichard Tolの指摘だが、IPCC 第2部会は「集団思考の罠」に陥っているという。つまり地球温暖化を重要課題と考えている研究者や各国の環境問題担当者ばかりが集まって議論する結果、視野が狭くなってしまっている、ということである。この指摘がどのぐらいあたっているのかは、筆者は内部の人間ではないのでよく分からない。筆者はWG2のメンバーを個人的に何人も知っている。一人一人は素晴らしい研究者であり、善意にあふれていて、尊敬する人ばかりである。

 だが今回のIPCC環境影響評価は失敗だった。この要約では、科学的知見の伝え方としては落第である。

 最後に、もう一つ思わざるを得ないことがある。これだけ頑張って警告を発しようとしても、結局は稚拙な手段に訴えざるを得なかったところを見ると、現在の科学的知見において、2度を超えると温暖化の悪影響が深刻になるとは言えない、ということなのではないか。

 これは意味深長である。というのは、排出削減をする立場から言うと、2度と3度では天と地ほど対策の費用や技術が異なるからだ。2度を追い求めるのを止めれば、世界中をバイオエネルギーで賄うといったような荒唐無稽なシナリオではなく、いまある技術で漸進的に省エネを進めるような、現実感のある対策シナリオが描ける。このような視点の転換が、いま必要なのではないか。

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