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2014年7月3日

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杉山大志 (すぎやま・たいし)

IPCC第5次評価第3部会報告書 統括執筆責任者

1991年東京大学理学部物理学科卒業。93年東京大学大学院工学研究科物理工学修士了、(一財)電力中央研究所入所。国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員、国際学術会議科学執行委員、京都議定書CDM理事会パネル委員、産業構造審議会専門委員、IPCC第四次評価第三部会及び統合報告書主著者を経て、現職。(一財)電力中央研究所上席研究員。

3.漁獲への影響

 次に、漁獲への影響についての図4である。これを普通の人の感覚で見てみよう。漁獲の増えるところと、減るところがあることが分かる。とくに熱帯と南極海は大きく減るという赤色になっているし、日本近海でも黄色くなっており、かなり減ることになっている。直観に訴える色使いでもあるので、本当にこのとおりなら、かなり心配になる。

図4 漁業への影響
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 だがこの図は、漁業資源において最も重要な要因である乱獲について考慮しておらず、また食物連鎖についての取り扱いも不十分である。本文では正直に、「確信度は低い(low confidence)」とはっきり書いてある。ここで問題なのは、この図が要約を飾り、しかも始末の悪いことに、要約には「確信度が低い」ということが一切触れられていないことだ。個々の研究はきちんと実施しており、その限界についても記述してあるのに、要約になるとその情報が欠落して、危機感をあおるだけになってしまっている。

4.農業への影響

 農業への影響については図5が示されている。作物の収量(ヘクタールあたり何トンの作物がとれるか)についての図である。

図5 農業への影響
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 図5を、また普通の人の感覚で一見すると、オレンジ色の悪影響(収量の低下)が、青い好影響(収量の増加)を上回っていて、それが年々悪化していくという印象を受ける。本当にこのとおりなら、困った、ということになる。

 ところが、ここでの縦軸は予測の件数(上記暫定訳では収量予測となっているが、原文はnumber of projectionsである)である。予測の件数は科学的知見の正誤とは何の関係も無いものであり、最低でもそのことは言及されるべきだが、そのような記述はここにはない。

 もっというと、上記の図の説明文をみても分かるように、この図にはあらゆる排出シナリオの結果が混ざっているとしている。CO2排出量もさまざま、温暖化に合わせて作物を選ぶといった適応をするかどうかもさまざま、ということである。これでは、何を読み取ってよいのかわからない。

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