2026年1月28日(水)

トランプ・パワー

2026年1月28日

 まず、過去の戦略で打ち出された「大国間競争」という概念は姿を消した。「NSS 2017」では中国とロシアを「修正主義国家」と名指しし、両国との戦略的競争が全体を貫く中核的テーマであった。しかし、前述のとおり、権威主義体制との共存を受け入れる立場へと転換したため、米国が世界における優越的地位を維持することは追求しつつも、地政学・軍事の観点から中国を特別視する記述は後退した(なお、北朝鮮への言及も消えている)。

 かつて中国を規定していた「主要な脅威」「最も重大な挑戦」「刻々と深刻化する脅威」といったキーワードも姿を消した。政治体制や人権をめぐるイデオロギー的な記述もなくなり、「ルールに基づく国際秩序」という常套句も用いられていない。中国を世界規模で全面的に対抗すべきライバルとはみなさなくなったかのようである。

 他方で、経済安全保障が国家安全保障の重要な柱と位置付けられているため、貿易、技術、サプライチェーンの観点から中国は最も警戒すべき競争相手となる。

 ただし、その対応においては「相互性」と「公平性」が強調され、一方的に中国を追い詰めることはせず(トランプ関税の失敗を暗に認めたようにも読める)、ウィンウィンの関係構築を志向する姿勢を示唆している。貿易合意に向けて「取引モード」に入り、関係の安定化を図ろうとする現在のトランプ氏の意向に一致する内容である。

 もっとも、中国に対してより大きな交渉上のレバレッジを確保するため、有志国との連携を強化する方針も打ち出している。これはアジア歴訪のタイミングで、重要鉱物のサプライチェーンや迂回輸出の規制をめぐり各国と相次いで合意を結んだ動きと符合する。

台湾海峡の一方的な
現状変更は支持しない

 そして、インド太平洋の安全保障については、中国の軍事的進出を抑止する姿勢が明確にされている。「第1列島線のいかなる地点においても侵略を否定できる軍事力を構築する」とし、台湾についても「理想的には軍事的優位性を維持すべきであり」「台湾海峡におけるいかなる一方的な現状変更も支持しない」と断言されている。

 この部分に関する記述は、実は過去のNSSよりもむしろトーンは強まっている。世界規模で中国に対抗しないとしても、インド太平洋、とりわけ台湾に関しては譲歩しないという強い意思が読み取れる。

 しかし、留意すべき点が2つある。第1に、台湾の重要性が、半導体生産能力や地理的特性といった経済安全保障の観点から説明されている点である。同盟国との信頼関係や地域秩序の維持よりも、経済的実利を重視する姿勢が示されている。

 第2に、中国の軍事力増強に対して、ある種の諦観ともいえる冷徹な認識が示されている点である。前述のとおり、台湾をめぐる記述では「理想的には軍事的優位性を維持すべき」とされているが、「理想的には」という表現自体が、現実にはその維持が困難となる可能性を織り込んでいることを示唆する。米国が単独で地域の安全保障を担うことはなく、インド太平洋の同盟国は各自が自らを防衛できる体制を整えるべきだという考え方は、ここにも明確に表れている。


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