戦略的競争から「G2」へ?
トランプの思惑
このように、「NSS 2025」には、中国との戦略的競争のトーンを和らげる記述と、台湾へのコミットメントを強める記述とが併存している。これをどのように理解すべきだろうか。
まず、トランプ氏自身はかねてより、「G2」とも呼ばれる世界観─すなわち、中国を封じ込めの対象とするのではなく、米国に並ぶ大国として認め、地域における主導的地位を容認しつつ、安定した関係を築こうとする考え方─を内在的に抱いてきたように見える。そのことは、これまで習氏を称賛する発言などに表れてきたが、特に昨年10月、釜山での首脳会談の前後に自ら「G2」という言葉を用いたことで、かつてなく明確に示された。
釜山会談と、その後の日本および中国に対する一連の対応は、この発言が単なるレトリックにとどまらなかったことを示唆している。釜山では、前述のとおり、事実上の「休戦」に合意したが、注目すべきことに台湾問題が議題に上らなかった。これは台湾をめぐって中国に何らかの譲歩を行ったわけではないが、同時に、中国による威圧的行動を批判しなかったことも意味する。過去の首脳会談や、近年の台湾をめぐる緊張状況を踏まえれば、異例の対応であったといえる。
11月24日に行われた米中首脳電話会談では、中国側の発表によれば、トランプ氏は「台湾問題が中国にとっていかに重要であるかを理解している」と述べたとされる。一方、米国側の発表には同様の言及はなく、発言の正確な内容は判然としない。
しかし、翌日の高市早苗首相との電話会談をめぐっては、ウォール・ストリート・ジャーナルが、トランプ氏が台湾の主権問題をめぐって中国を挑発しないよう助言したことを報じた。もっとも直接的な圧力や発言の撤回を求めるものではなかった、ともしている。
高市氏の答弁後の日中関係の悪化をめぐっては、ジョージ・グラス駐日大使や国務省副報道官が日本への支持を表明したものの、大統領や閣僚級からのメッセージは発信されていない。12月6日の中国軍機によるレーダー照射事案後も、この状況は大きく変わっていない。
こうした米国の一歩引いた対応の背景には、G2の世界観をイメージしつつ、中国との貿易合意に向けて安定した関係を望むトランプ氏の意向があると見ざるを得ないだろう。
さらに12月8日、トランプ氏は、エヌビディアのAI半導体「H200」の対中輸出を認めると発表した。これは、バイデン前政権が導入し、当初はトランプ政権も継承していた対中技術輸出規制の方針の転換を意味する大きな動きである。
その背景には、エヌビディアのロビイングに加え、技術規制の緩和に前向きなAI政策責任者デヴィッド・サックス氏らの影響があるとみられるが、最も大きな決め手になったのは中国とのディールを重視しているトランプ氏自身の意向と考えられる。
