国際電話回線はトルコには存在しないのか
7月17日。ダーダネルス海峡の大都市チャナッカレに到着。最初に港近くの大きなホテルで30代半ばのマネージャーにコレクトコールしたい旨を告げた。ところが、コレクトコールの意味を知らない。コレクトコールは死語なのだ。発信者ではなく、受信者が通信料金を支払う国際電話の方法であると説明したら、「携帯電話は国際通話できない」「固定電話は国内専用の設定になっている」と予期していた回答。数軒の有名ホテルを回ったが全く同様の反応。
5軒目のホテルの年輩のマネージャーは「国際電話したいなら、電信電話公社で一番安いテレフォンカードを購入して公衆電話から国際電話のオペレーターを呼び出すという方法がある」と教えてくれた。1キロくらい先の電信電話公社で、長い行列に並んでやっとテレフォンカードを購入。職員は電話ボックスを利用するように指示。公社の建物の前に5つの電話ボックスが並んでいたが、全て故障しており使用不能。職員を呼び出して使用可能な電話ボックスの所在を尋ねると「知らない」の一点張り。
ベテランの職員が来て「国際電話は〇〇〇テルコムで掛けられる」とオフィスの場所を教えてくれた。小一時間かけてオフィスに行き行列で30分待って用件を伝えると、2階のマネージャーのデスクへ行けと。英語の達者な中年のマネージャーは「このオフィスでは国際電話はできない。国際電話できるSIMカードを1階で購入すれば自由に国際電話できる」と至極常識的な回答。
がっかりしてオフィスを出ると夕暮れ時だ。一縷の望みを抱いてチャナッカレ警察本部に行った。受付で用件を伝えると警官が来たが「〇〇〇テルコムへ行け」と話にならない。英語が流暢な若手警官が応援に来たので「警察本部の電話を借りてコレクトコールしたい」と伝えると「警察本部の電話は国際電話できない。自分の携帯電話は国際通話できるからコレクトコールをトライしてみたらどうか」と親切なオファー。トライしてみたがオペレーターの呼び出しはできず国番号+相手先番号で通常の国際電話しかできない。
悄然と警察署を後にして近くのモスクに行き管理人の許可を得てモスクの庭で野営した。
唯一絶対神“アラー”天啓
翌日の払暁、モスクの尖塔から流れるアザーン(礼拝の呼びかけ)で目が覚めた。大音声のアザーンの朗誦で突然“光明”が射した。ジタバタ足掻くのを辞めて、アラーの神様にお任せしろという天啓だ。イラン駐在時代に耳タコでイラン人から聞いた“インシャーラー”(神の思し召しのままに)だ。
イスラム教は“人の運命は神が決めたもので天命である”と説く。親鸞聖人の説く絶対的他力本願と同義であろう。コレクトコールは断念して帰国したらカード会社の規則に従いダメ元で淡々と手続きしようと決めた。
果報は寝て待て「2週間以内にお支払いします」
9月24日。羽田から帰宅すると直ぐにカード会社の窓口に電話。2週間以内に事故担当窓口から電話させますとの回答。なんと翌日朝一番で担当から電話があり「被害金額は確認しました。盗難届出証明書と被害金額補償申請書を送って下さい。問題なければ2週間以内に口座に被害金額を振り込みます」との予期せぬ説明。家人からの電話内容が全て記録されて担当者に引き継がれていたようだ。
担当者は年輩のベテランらしく海外での盗難事故では、現地の警察が捜査しないのが一般的であること、そして保険会社も海外の警察に捜査を要請しても埒が明かないことを承知していることを説明。そして本件はカードでの買い物や現金引出しが短期間で異常に頻繁であり深夜から早朝の時間帯にも不自然に利用されていることから、不正利用であると想定されると説明した。
筆者が“被害者本人が被害届をカード会社の窓口にコレクトコールする規則”は、海外では非現実的であると指摘すると「代理人からの電話連絡、本人からの電子メールでの連絡も可能にする方向で社内検討しているので、来年以降規則が変更されると思います」とのコメント。
モロッコ男の特徴、ホステルの名称・住所、推定犯行現場と時刻、犯人がチェックアウトした日付、酒屋の主人もグルである可能性があることなど、捜査に役立つような情報を書き込んだ補償申請書一式を送付したら、10日もしない内に銀行口座に被害金額全額が振り込まれていた。
全能のアラーの神に深甚なる感謝を捧げた次第。
