モスクの夏休み子ども教室ではコーラン物語や初級アラビア語のお勉強
7月8日。イズニックのイェシル・ジャーミイは1378年竣工の由緒あるモスク。本堂の脇の礼拝室では20代の青年が20人くらいの子どもたちに絵本のような教材でコーランの教えを分かりやすく解説していた。
同じくイズニックのハジュ・オズべク・ジャーミィは1332年創建の現存するオスマン帝国最古のモスク。小さな建物の中に15人くらいの子どもが勉強していた。奥の部屋の5人の女子児童はアラビア語の単語を練習帳に書いて自習していた。手前の部屋の10人くらいの男児は若いイマムからコーラン物語を聞いていた。ちょうど休み時間になったのでイマムの案内で最古のモスクの内部を見学した。イマムによると夏休みの平日の午前中に子ども教室を開いてイスラム教の初歩的知識を教えているとのこと。
ブルサやイズミールのモスクの子ども教室では保護者らが教室の終わるのを待っていた。保護者によると子ども教室は8時半から休憩を挟んで1時までが普通のようだ。そして保護者はモスクが子どもを半日預かってくれるので助かると感謝していた。チェシメ近郊のモスクのように小学校と同様に午前8時から午後4時までぎっしりとカリキュラムを組んでいるケースもあった。
男女別学の夏休み子供教室はトルコの国是“政教分離”に反するのか
その後も各地のモスクで同様の夏休み子ども教室を見かけた。先生役はモスクの正式イマムではなくイマム養成学校の学生やいわゆる見習いイマムが大半だった。そして必ず男女の教室を分けているところが夏休み“イスラム教”子ども教室の際立った特徴であろう。
政教分離・世俗主義を国是とするトルコでは小学校から大学まで公立学校は男女共学である。いわゆる女子高や女子大は存在しない。国父ケマル・アタチュルクによるトルコ共和国建国以来の政教分離政策によりイスラム教の伝統である男女別学が禁止されているのだ。
ちなみにイランイスラム共和国では小学校から大学まで完全な男女別学である。イスラム教の原則は“男女席を同じうせず”なのだ。
モスクの夏休み子供教室への批判
チャナッカレの英国留学経験のある経営者は「モスクの子ども教室はマドラッサ(伝統的イスラム教学校)教育の復活であり、児童を宗教的に洗脳しようとする保守イスラム教勢力が推進している」と危険視した。優秀だが貧しい家庭の児童を対象に「イスラム教指導者養成学校に進学すれば高等教育を無償で受けられる」と両親を説得しているという。経営者は子どもの頃からコーランの暗唱やアラビア語の習得ばかり詰め込む伝統的イスラム教育は偏った人間を形成すると批判した。
筆者はイスラム教とチベット仏教の両宗教が併存している北インドを思い出した。やはりイスラム教団が運営している無償で高等教育を受けられる全寮制イスラム学校へ優秀だが貧しい児童を勧誘していた。
英国の名門大学で経済学の博士号を取得した35歳の女性は「国父アタチュルクが唱道した政教分離・世俗主義が国是であるはずのトルコではエルドアン政権下で社会のイスラム化が進められている。特に2016年のクーデター鎮圧後にはイスラム教保守派の影響が強まっている。公立学校での宗教教育(イスラム教育)は制限されているが、モスクでの私的な教育という名目の夏休み子供教室は実際には政府が支援している」と批判。公立学校でも宗教の時間が増えるなどイスラム化が進んでおり教育環境の将来が不安なので自分の子どもはロンドンで育てる方針と断言した。
モスクの運営責任者であり宗教指導者であるイマムとはどんな人間なのか
【村の人気者のイマム】
8月25日。古代ギリシアのリキア共和国の首都であったクサントス遺跡のある村のモスク。50歳のイマムはサムソン出身。愛想の良い御仁であり筆者が自転車で通りかかったら声を掛けられ話していたら「モスクの礼拝室に泊まればテントを張る手間が省ける」とオファー。日没礼拝が終わると信者に囲まれて賑やかに討論していた。就寝前の礼拝にも10人くらい村人が参集していた。イマムは人気者らしく礼拝の後も信者が帰らず全員で話し込んでいた。イマムは黒海沿岸のサムソン出身。2年前に地中海沿いのクサントスに単身赴任。
【フツウの好青年のようなイマム】
9月1日。デムレ市街地を離れた海辺のモスク。イマムは30代前半で奥様と幼稚園児の3人でモスクの敷地内の平屋の住宅に住んでいる。片言の英語でいろいろ世話を焼いてくれる。イマムはトルコのどこにもいるような親切で話好きのフツウのトルコ的好青年だ。日本人と聞いてモスクから日本語の『マホメットの生涯』というようなタイトルの日本語のパンフレットを持ってきてくれた。ちなみにその後アンタルヤ付近のモスクでは『イスラム教入門』という中国語のパンフレットをもらった。
【若手イマムの月給は5万リラ(=19万円)】
9月7日。古代ギリシアのファセリス遺跡の東方の村の海辺のモスク。イマムは30歳くらい。イマムが不在だったのでモスクの駐車場の片隅にテントを設営して寝ていたら夜9時頃にイマムが戻って来て「公共の場所なので近くの公園とか他の場所に移動してほしい」と“まあまあ”のレベルの英語で筆者にクレーム。筆者が「公園はキャンプ禁止であり、モスクの駐車場に車は停まっていないのでキャンプを許可してほしい」と依頼すると若いイマムは「自分で判断できないので上司に相談したい」と返答。筆者が「上司に相談する前にアラーの神が遠来の日本の老人にご慈悲を与えるかどうか判断してほしい」とイマムに再考を促すと「タマーム、タマーム」とキャンプを許可してくれた。
翌朝イマムと改めて話したら非常に真面目な性格の若者だった。彼は中古のフォードの小型車フィエスタを友人から格安の25万リラ(=約95万円)で購入したという。9年で25万キロ走った中古車である。筆者が高すぎるとコメントしたらスマホの自動車販売価格のサイトを開いて現地生産のトヨタ・カローラの新車価格が150万~200万リラ(=570万~760万円)、ベンツ500万リラ(1900万円)なのだと。
ちなみにイマムの月給は5万リラ(=約19万円)なのでカローラ新車は年収3年分になると嘆いた。
