スペイン語のみで製作されたアルバムで最優秀アルバム賞を受賞したプエルトリコ出身のバッド・バニーは、意を決したかのように一息おいて、「ICEは出て行けと言わせてください」と語り始めた。「ヘイトよりも強いのは愛だけ」と述べて喝采を浴びた。演説の中身もさることながら、大喝采を浴び「名演説」と高く評価されたことは、トランプにとって気に入らなかったに違いない。
最優秀新人賞のオリヴィア・ディーンの受賞コメントにおいて、一番の喝采を浴びたのは、「私は移民の孫としてここにいます」と述べた部分であった。
最もトランプの癇にさわったこと
ただ、一番トランプの癇に障ったのはこれらのICE批判ではなかった。司会のトレバー・ノアがビリー・アイリッシュの年間最優秀楽曲賞へのコメントで「どのアーティストも手に入れたい賞だ。トランプがグリーンランドを手に入れたいと思うのと同様に」と述べ、その理由として「それももっともな話で、エプスタインの島がなくなっちゃったから、ビル・クリントンとつるむ新しい島が必要なんだ」とからかった。
追加で大量の資料が公開されたばかりでトランプが気にしているエプスタインファイルと絡めたのである。しかも、このノアの冗談が会場にバカ受けだったのも気に入らなかっただろう。
トランプはすぐに反応し、SNS上で「島には行ったこともないし、近くに行ったこともない」と否定した上で、「この可哀そうで情けなく才能のない間抜けにどうやら弁護士を送り込むことになりそうだ」と発信した。
DEIを前面に出すグラミー賞
もともとトランプとグラミー賞を実施するレコーディング・アカデミーとは相いれない素地はあった。レコーディング・アカデミーのサイトにはDEI(多様性・公平性・包括性)という項目があり、「私たちの使命」として、「レコーディング・アカデミー、その関連団体、そして音楽業界において、多様性、包括性、帰属意識、そして尊重の強い文化を推進すること」と謳っているのである。
レコーディング・アカデミーが以前からそのような姿勢を貫いてきたわけではない。以前は、白人男性のみが投票権を持ち、人種差別や性差別があると批判されてきた。ただ、近年、レコーディング・アカデミーは、組織改編を進め、投票権を持つ会員の多様化を進めている。これはアカデミー賞とも似た展開と言える。
トランプ政権を批判する側の人々にとってはそのような変化は望ましいが、アカデミー賞同様、逆に振れ過ぎて、審査において多様性が重視され過ぎているとの批判もある。DEIを否定する大統領令に署名したトランプの政策を支持する側の人々にとっては、レコーディング・アカデミーが多様性に基づいて賞を選んでいるようにみえるのは許しがたいものであろう。
