2026年2月22日(日)

キーワードから学ぶアメリカ

2026年2月22日

歴代政権が関税を交渉カードにしなかった理由

 トランプ政権内では、プロジェクト2025に執筆したスティーブン・ミラーやピーター・ナバロらが高関税政策を推進してきた。高関税政策は大恐慌時代に発動された1930年関税法(スムート・ホーリー関税法)を上回る規模であり、世界的な貿易戦争が激化するリスクが指摘されるとともに、世界経済への影響も懸念されている。

 トランプ大統領は、関税政策は交渉の手段として最も強力かつ容易な方法だと述べて正当化している。実際に米国に対する貿易依存度が高い国は、米国の方針を拒否するのは容易ではないため、トランプ政権が提示するディールを受け入れざるを得ないだろう。

 米国に有利な条件を飲ませるために関税を武器にするという方法は、ある意味合理的に見えるかもしれない。だが、歴代の政権はそれを利用してこなかった。一つには高関税政策が世界経済に混乱をもたらす可能性が高いからである。

 それに加えて、大統領が高関税政策を課す法的根拠がないと考えられてきたことも重要である。読者の中には民主党のバラク・オバマ政権下で、環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉が難航したことを覚えている人もいるだろう。オバマ政権期に交渉が難航した米国内の理由は、合衆国憲法の第1条第8節第1項で租税、関税、輸入税、消費税を課して徴収する権限は連邦議会が有すると規定されているためである。

 とはいえ、関税に関する問題を連邦議会が扱うのは、今日では合理性に欠ける。合衆国憲法が作られた18世紀ならば、関税のあり方について連邦議会でじっくりと時間をかけて検討することが可能だったかもしれない。だが、グローバル化が進展し、科学技術も進歩した今日では、国際交渉に関しても迅速な決断が必要である。また、国家間で関税交渉をする際には、例えば自動車関係の関税と農作物の関税をバーターにするなどの取引が必要になる場合もあるが、下院議員が435人、上院議員が100人いる連邦議会でそれを決めようとしても、各種利益団体を背後に持つ議員が抵抗してまとまらなくなるだろう。

 このように連邦議会が関税について決定を行うのは現実的ではないため、連邦議会は大統領に関税の権限を委譲してきた。1934年互恵通商協定法では、大統領は議会の承認なしに互恵的な関税引き下げを行う権限が与えられた。そして74年の通商法では、大統領の非関税障壁削減交渉の権限が拡大されるとともに、貿易協定の議会審議を迅速化するためにファスト・トラック権限が創設された。

 これは後に貿易促進権限(TPA)と名称変更されたが、2007年にイラク戦争を遂行するブッシュ政権に対する反発もあって民主党多数議会が延長を認めないままオバマ政権に突入し、逆にオバマ政権期には共和党多数議会が権限を付与しなかった。15年に再承認されたことによって、TPPはようやく可決したのである。だが、21年に再び失効しているため、伝統的な解釈に基づくならば、大統領が通商協定を結んでくることはできないはずである。


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