トランプが持ち出した法律
トランプ政権は、他国と貿易交渉をするのではなく、一方的に諸外国に関税を課している。その根拠として様々な過去の法律が持ち出されている。
例えば、62年通商拡大法は、安全保障を脅かす恐れのある輸入品に関税を課すことができると定めており、トランプ大統領は、鉄鋼やアルミニウム製品に追加関税を課す際にこの条項を使用している。また74年通商法は外国の貿易慣行が米国の貿易上の利益を損なう場合に報復関税や制裁を行うことを認めており、トランプ大統領は中国製品への高率関税でこの条項を適用している。
今回の判決で扱われた国際緊急経済権限法(IEEPA)は、国家緊急事態を宣言した場合に経済制裁や貿易制限を行う権限を大統領に与えている。77年制定の同法は、異常かつ並外れた脅威に対する権限や緊急事態に際して貿易を規制する権限を大統領に与えている。
トランプ大統領は中国、メキシコ、カナダなどからの麻薬密輸が緊急事態に当たるとして2月にIEEPAを適用したのを皮切りに、ほぼすべての国からの輸入品に同法を根拠として高関税を課している。そこで根拠とされたのは、米国の貿易赤字が異常かつ並外れた脅威をもたらしているということだった。
歴代の政権は制裁措置の発動のためにIEEPAを頻繁に適用しているものの、関税措置のために利用したのはトランプ大統領が初めてである。トランプ大統領は国を滅ぼすような持続不可能な危機に米国が直面しているとして、緊急対応が必要であると述べている。だが、IEEPAを根拠とするトランプ政権の関税政策に対しては、連邦最高裁判所の判事も口頭弁論時からその合法性に疑念を呈していた。
トランプ大統領が指名した保守派のバレット判事は、防衛や産業基盤が脅かされていると仮定しても、なぜ対象を一部の国に限定するのではなく、これほど多くの国を高関税政策の対象とするのかと疑問を呈していた。また、ロバーツ首席判事は、関税は議会の中核的な権限だと指摘したうえで、関税を大統領権限で発動するためには予め議会が大統領に明示的に権限を委任すべきだとの考えを示していた。同じく保守派のゴーサッチ判事も政権側のサウアー訴務長官の主張を認めるのに苦労していると述べていた。
今回の判決を執筆したのはロバーツ長官だが、口頭弁論時と同じ論拠で、連邦議会による明確な授権なしにIEEPAを根拠として大統領が関税をかけることはできないと宣言している。
判事の反対論拠
トランプ大統領は、仮に政権がこの訴訟で敗れれば米国にとって壊滅的なことになるとして、この国の歴史で最も重要な訴訟の一つだと述べていた。そして、判決が出された後には、この判決について「恥ずべきことだ」と発言している。
連邦政府は、最高裁が違法と判断した関税を支払った企業に対し、数十億ドル規模の還付を迫られる可能性がある。多くの企業は、最高裁がトランプ関税を無効とした場合に備えて、還付請求権を守るために既に訴訟を起こしている。
多数意見は還付をめぐる争いには触れていないが、トランプ大統領が指名した保守派のブレッド・カバノー判事は反対意見の中で、「一部の輸入業者は既に消費者などにコストを転嫁している可能性があるにもかかわらず、米国はIEEPA関税を支払った輸入業者に数十億ドルの還付を求められる可能性がある」とし、還付手続きが混乱をもたらす可能性が高いことを反対の論拠として挙げている。
