農業、AI、医療でも……
EUの産業競争力弱体化の表れ?
EV関連の話だけではない。EU域内では、ルールチェンジが他分野にも広がる。例えば、農業、AI、医療、包装材などがそうだ。
農業分野については、同じく昨年末にEUの執行機関である欧州委員会が農薬と殺生物剤の規制体系を抜本的に変更する方針を示した。これまでは、10年から15年のスパンで安全性を再評価する体制を整えていたが、時間制限なしの許認可制へと移行する構えとなった。
AI規制も然り。一般データ保護規則(GDPR)やプライバシー指定などのデジタル法改正の見直しを含め、欧州委員会は当初、ハイリスク用途に対し、26年までに厳格な規制を適用する方向だったが、業界からの強い反発により実施期間を27年に延期する予定となった。デジタルの分野においては、適用条件、期限、義務負担の見直しなどが多く、企業や加盟国からの反発が押し寄せるため、修正が繰り返される。
包装材については、再生利用可能を義務とするEUの包装廃棄物規則(PPWR)が1994年以降、運用されてきた。しかし、2024年から25年にかけ、大幅な改正が行われ、プラスチックの単一用途包装の禁止や再利用可能な包装への移行が促進された。多くの企業は、包装設計の全面的な見直しを迫られている。EUではなぜ、こうしたルールチェンジが頻発するのか。
みずほ銀行国際戦略情報部シニアアナリストの舘林明日香氏は、米中との競争を念頭に置く欧州が、産業競争力の弱体化を懸念していることが一つの要因だと指摘する。
「自動車でいえば、価格競争力のある中国製EVがシェアを伸ばす中で、欧州メーカーの苦戦が続いている。急速なEVへのシフトに対し、自動車メーカーや一部のEU加盟国政府が是正を求めていたことが背景にある」
また、欧州における極右政党の台頭といった政治情勢の変化や、エネルギー安全保障の対応なども関係しているという。
「ウクライナ紛争後、EUにとって重要なロシア産LNG(液化天然ガス)の代替供給先となったカタールが、パリ協定の条項に反対していたことを踏まえ、EUのエネルギー安保の重要性から同条項を撤廃し、譲歩も見せた。ロシア産ガス依存からの脱却を進める中、EUにとっては、背に腹は代えられない状況になったともいえる」
人口約4億5000万人のEUが、共通した政策を加盟国内で遵守することは容易でなく、度々、国家間の摩擦さえも生じる。目標に掲げる政策が環境やデジタル、医療や競争など、多様なテーマを同時に達成させる試みと仕組みがあることも、利害対立を生む原因かもしれない。
フランスでの禁漁が
日本に与える影響
1月22日、また新たなニュースが流れてきた。フランス西岸のビスケー湾周辺で、24年から約300隻の漁船に対し、イルカの保護を目的とした1カ月の禁漁措置が実施されているという。これもEUが規制する「感受性の高い種の保護」によるが、これによる漁獲量の損失は4320トンと推計されている。漁業団体の会長を務めるトマ・ル・ガル氏はAFP通信に対し、「補償金によって感覚が麻痺している。ある種の諦めも広がっている」と述べていた。
