2026年3月2日(月)

Wedge REPORT

2026年3月2日

 EUのルールへの対応は、日本の輸入業者にも間接的な影響が出ている。フランス大西洋産のスズキ、アンコウ、カレイは、日本の高級寿司店やフランス料理店で嗜まれるからだ。遠い国での禁漁も、日本人にとって無縁でないことの一例といえる。

 国内総生産(GDP)が世界第5位へと後退寸前の日本は、海外市場での景気再構築に向けても必死だ。中小企業の割合が高い産業構造や、長期政策を重要視する日本は、ここまで見てきたEUの度重なる規制変更をどう捉えているのか。昨年12月、日本貿易振興機構(ジェトロ)が公表した「ジェトロ・ビジネス短信」は、現状、そして将来的に影響を受ける可能性が高い在欧日系企業を挙げ、中でも前述のPPWRについて、次のような報告をしている。

 〈PPWRで課題やチャンスと捉える事項を製造業でみると、「規制に対応した包装材への切り替えや調達見直しによるコスト上昇、調達先の確保」が70.5%、「ラベル表示やリサイクル、再利用に対応するための体制構築やコスト上昇」が54.7%で上位(課題面=筆者補足)。一方、「EU規制に対応した自社の包装材の需要拡大、新規顧客の獲得」(チャンス=同)につながると考える製造業企業は20.9%にとどまり、日系企業は同規則をチャンスよりも課題と捉える傾向が強いことがうかがえる〉

 日本近代史・経済史を専門とする英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のジャネット・ハンター教授は、こう分析する。

 「EU規制の変更は、輸出や進出を目指す企業にとっては課題だが、過去を振り返ると、多くの日本企業は変更にうまく適応してきた。現地の事情を熟知することが鍵で、日本企業はこの点で優れた手腕を発揮してきた。一方、日本市場の環境に柔軟に対応できなかったのがヨーロッパ企業だった」

整備されたEUの規制は
日本企業にとって好都合にも

 多種産業において、EUのルールチェンジは、その都度、日本企業には負担に見える。だが同時に、グローバル経済における日本の役割は、不景気の現在でも世界からの期待値は高い。EUとは今後、どのような関係を維持していくべきなのか。

 富士通チーフエコノミストのマルティン・シュルツ氏は、このような見方を示している。

 「EUは長年、世界のルール設定者だった。欧州市場の魅力は、規模と安定した需要のほか、規制が整備されていること。日本企業は品質を重視する一方、米中の競合企業ほど柔軟性がないため複雑ではあるが、整備された規制が日本企業にとっては好都合となる」

 日本は中道的な存在にある。他国のルールに左右され、不利な状況に置かれながらも、あらゆる場面を克服し、実績を積み上げてきた歴史がある。それは、日本らしさでもあり、底力でもあるといえる。世界情勢が不安定な昨今、日本の経験と知恵、新たな突破口と関係構築が、EUというルール設定者によって、むしろ開かれていく可能性は大いにあるのかもしれない。

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Wedge 2026年3月号より
酷似する「戦間期」と現代 第三次世界大戦を防げ
酷似する「戦間期」と現代 第三次世界大戦を防げ

「新しい戦前になるんじゃないですかね」─。今から4年前、テレビ朝日の『徹子の部屋』でタモリさんが口にした言葉だ。 どのような意図で発言したのかはわからない。ただ、コロナ禍だった当時、全体主義体制を称揚するような空気が漂い、議会制民主主義の危機も顕在化し、「1930年代」に時代が近づきつつあると感じていた私は、その言葉に妙な〝重み〟を覚えずにはいられなかった。 昨今の様々な出来事を見るにつけ、その感覚は確信へと変わった。時代は、当時の「戦間期」を思わせる局面に入り、大国指導者が世界の行方、人類の運命を左右する時代になったのである。このままでは、最悪の場合、第三次世界大戦が起こる可能性も否定できない。 ただ、もし戦争になったとしても、大国指導者たちが戦場に行くことはない。いつも犠牲になるのは、市井の人々である。 英国を代表する歴史家、A・J・Pテイラーは、『ウォー・ロード 戦争の指導者たち』(新評論)最終章で日本のことを取り上げ、こう指摘している。「日本は戦争の指導者はただの一人もいなかった」 つまり、指導者不在のまま、日中戦争、太平洋戦争へと突き進み、日本は破滅したのである。当時、大衆も熱狂し、政治はそれに流された面もある。 一度始まった戦争を終わらせることは容易ではない。それは4年が経過したロシア・ウクライナ戦争を見れば明らかである。動乱の時代、今こそ歴史に学び、教訓、希望を見出し、この危機から「脱出」する必要がある。


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