2026年3月4日(水)

Wedge OPINION

2026年3月4日

問われる今後の日本の姿勢
多面的な偽情報対策を

 25年9月5日の官房長官記者会見で、林芳正官房長官(当時)が偽情報対策の政府内体制強化を発表した。内閣官房副長官の調整のもと関係省庁が連携し、情報収集・分析・共有の迅速化と正確な情報発信力強化などを進めるとしている。

 一方、民間セクターや市民社会など政府外との連携は、現時点では十分な比重が置かれておらず具体策も不十分だ。偽情報対策は安全保障のみならず、防災、公衆衛生、選挙など多領域に関わり、同一の情報環境を基盤として実施される。SNS企業だけでなく、AI関連企業、メディア、大学などの研究機関、NGOなど多様なプレーヤーを動員する設計が不可欠だ。

 海外の研究者から「日本は今から対策を構築できるので幸運だ。我々のような国々の失敗を学び、回避できる」と言われることがある。実際、諸外国では、偽情報や敵対的ナラティブへの対処が、訂正・反論やコンテンツの削除といった事後対応に追われてきたが、これらは効果が限定的であるだけでなく、政治問題化しやすいことも明らかになってきた。そのため近年では、対策の中心をコンテンツの否定・削除・規制だけでなく、社会が操作されにくい情報環境を産学官民の連携の下で整備し、レジリエンスを高める予防的介入へと拡大しつつある。

 昨年、主要7カ国(G7)の議長国を務め、ロシアによる偽情報や中国による抑圧に強い関心を持つカナダも、関係省庁の連携や政府内の対応能力強化に加え、「政府と市民社会との協働」を強化している。

 具体的には、選挙期には政府は有権者向けに偽情報への注意喚起や耐性を高める啓発を行い、平時には市民のデジタル・リテラシー向上を目的とした市民社会団体の取り組みを支援している。また、外務省などを通じて外国勢力による影響工作を監視し、社会に注意喚起する取り組みも進めている。大学など研究機関の知見を政策に反映する取り組みも進められている。

 日本にも、諸外国の最新動向を敏感にフォローし、時代に適した方策を柔軟に取り入れる姿勢が求められる。ただし、対策を政府任せにすると事後反論型の情報発信や法整備の強化を中心とした対応に偏りやすく、その結果、対策そのものが受け身で、政治対立の文脈に組み込まれる危うさもある。重要なのは、「社会全体」で操作されにくい情報環境を整備することだ。

 そのためには、個人ベースでは感情を刺激する情報に冷静に対処し、拡散を控える判断力を持ち、企業は偽情報を経営リスクとして捉え、危機対応の体制整備と信頼醸成を平時から積み重ねる必要がある。メディアは信頼できる情報源としてのジャーナリズムを磨き、大学・研究機関はデータに基づく研究と根拠に裏打ちされた知見を社会に還元し続ける役割が求められる。

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