物価上昇と生活者の変化
厚生労働省の毎月勤労統計が示すとおり、実質賃金は物価上昇の影響を受けて低下傾向が続いている。2022年以降、消費者物価指数はエネルギーや食品を中心に上昇し、電気・ガス料金の値上げ、ガソリン価格の高止まりが家計を直撃した。さらに小麦や食用油、乳製品の価格高騰に円安が重なり、パンや麺類、加工食品の値上げが止まらない。
以降、物価上昇は一過性ではなくなり、「値上げのお知らせ」は特別なニュースではなく日常風景となった。名目賃金が増えても、それ以上に生活コストが上がれば、実質的な購買力は確実に低下する。
給料は上がっているはずなのに、月末の残高には余裕がない。外食の回数を減らし、電気の使用量を気にし、まとめ買いで単価を抑える。家計簿アプリの支出グラフを見てため息をつく。そうした小さな行動の積み重ねが、生活防衛意識の強まりを物語っている。
その結果、消費の基準は変わった。価格だけでなく容量や原材料表示まで確認するようになった。安さだけでは選ばない。本当に価値があるかどうかを見極めるようになった。
実質賃金が下がる時代に、人々は単に安いものを求めているわけではない。限られた賃金の中で、後悔しない選択をしようとしている。安さよりも、価格の理由が納得できること、品質が守られていること、企業の姿勢が誠実であることを重視している。
いま問われているのは価格そのものではない。価格の背後にある考え方と、顧客に対する向き合い方である。
企業側も難しい判断を迫られている。原材料費、燃料費、包装資材コスト、物流費の上昇が続く中で、価格をどう扱うかは経営の核心となる。
値上げをすれば客足が遠のくかもしれない。価格を据え置けば利益が削られる。その葛藤の中で、企業の姿勢が隠しようなく表れる。
価格改定の姿勢が信頼を分ける
しかし現場を歩くと、同じ経済環境の中でも顧客の支持を集め続けている店がある。価格が最安値でなくても、「ここで買いたい」と思われている店がある。その一つが東京・浅草の老舗「パンのペリカン」だ。
同店は、価格改定を正面から引き受けてきた店である。1942(昭和17)年創業で、扱う商品は食パンとロールパンのみ。品数を広げるのではなく、限られた商品を磨き続けるという方針を貫いてきた。
