2026年3月5日(木)

商いのレッスン

2026年3月5日

 2022年4月1日、同店は食パン1斤を480円(税込)に改定した。理由は、小麦、油脂、乳製品の価格高騰と燃料費の上昇、包装資材コストの増大である。そして2026年現在、食パン1斤は540円(税込)になっている。4月からは560円(税込)への値上げを発表している。

(「パンのペリカン」ホームページより)

 数年で数度の改定は簡単な決断ではない。それでも顧客は離れていない。なぜなら同店は値上げを隠さず、品質を守るための選択であることを明確に示してきたからだ。

 頻繁に価格を変えるのではなく、限界まで努力を重ね、必要なときにのみ改定する。原価を削って品質を落とすという選択をしない。焼き上がりの質や配合を安易に変えず、「いつもの味」を守り続ける。その一貫した姿勢が、価格以上の信頼を生んでいる。

 生活者は値上げそのものを拒絶しているのではない。値上げの背景にある企業の誠実さと覚悟を見極めている。価格改定の姿勢は、その企業が顧客とどのような関係を築こうとしているのかを映し出す。

高級食パンブームの拡大と終焉

 一方、18年前後から広がった高級食パンのブームは、非日常の価値を前面に打ち出した。甘くやわらかく、耳までしっとりとした食感。大胆なネーミングと独特の世界観で注目を集め、短期間で全国に店舗が拡大した。メディアが取り上げ、行列が話題となり、フランチャイズ展開も加速した。

 しかし拡大のスピードが速かった分、需要が落ち着くと競争は激化した。価格帯は1斤800円前後が中心で、日常使いには高い。実質賃金が低下し、生活防衛意識が高まる中で、「特別なパン」は優先順位を下げられた。ブームの熱が冷めると閉店が相次ぎ、街から看板が消えていった。

 高級食パンは話題をつくる力に優れていたが、生活に定着する設計ではなかった。一方でペリカンのパンは、派手さはないが日常の食卓に根づいている。流行で拡大したのか、習慣で支えられたのか。その違いが結果の差となって表れた。

 非日常は人を惹きつけるが、継続的な支持を保証しない。日常に組み込まれた商品は、派手ではなくとも強い。ブームは拡張の論理で動き、定着は信頼の論理で続く。


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