「奈良のシカは野生」は40年ほど前から
しかし「奈良のシカは野生」と定まったのも古くはない。実は「春日大社の所有物」とされていた時期も長くあり、春日大社が他の神社や遊園地などにシカを“分与”したこともある。また公園周辺の農業被害に対して春日大社が見舞金を支払っていた。
ところが79年にシカ被害の大きかった農家が、春日大社に損害賠償を求める裁判を起こした。その後第2次訴訟もあって、84年に出た判決は原告勝利となるが、和解勧告を受けて春日大社はシカの所有権を放棄した。そして奈良のシカは無主物と位置づけられた。
つまり「奈良のシカは野生」と結論づけられたのは、たかだか40年ほど前なのである。奈良のシカの歴史からすると、極めて最近だろう。
その上で、奈良のシカと人間との共存を図るために、様々な努力が図られている。シカの保護だけでなく、農地には防御柵が張られ、観光客からの苦情などに対応するための相談窓口もつくられた。トラブルを防ぐため公園内の巡回も行われている。野生動物と人の暮らしを両立させるのは並大抵のことではない。
それゆえ奈良のシカは、人に馴れて「野生だけど」人の手から鹿せんべいを受け取り、身体を触られても平気になった。そして数は増え続けて、昨年はとうとう1465頭を数えるまでになる。さらに問題のあるシカを収容する鹿苑には、250頭前後が常時収容されている。史上最多だろう。
奈良だけではない、全国的に増えるシカ
ここまで奈良のシカを巡って複雑な歴史的経緯があったことを紹介したが、改めて今回の遠出したシカについて考えたい。
現在の奈良公園が森林に覆われていたら、生息できる頭数は300頭ぐらいと推定されている。だが奈良に都が開かれたことで、森を切り開いて町や寺社が建設された。
すると寺社の境内に草が生えるほか、若草山などに草原が広がるようになった。それがシカの餌となる。しかも危害を加えられないとシカも学習した。だから1000頭を超えるほど増えたのだ。
