激怒したトランプ大統領は、即座に厳しい報復措置をとった。すべての連邦政府機関に対して、アンソロピック製品の使用を全面的に禁止する大統領令を出したのだ。
ペンタゴンは同社を事実上の「ブラックリスト」に乗せたため、米国防衛産業と取引があるすべての企業は、同社の製品を避けることになった。アンソロピックはこの国家権力の行使に対して、法廷で争っている。
続いて、26年4月、ベッセント財務長官とパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は、ワシントンの財務省本部に、ゴールドマン・サックス、シティグループ、バンク・オブ・アメリカなどウォール街の大手銀行のCEOたちを緊急招集した。会合の議題は「クロード・ミトスによる金融システムへの攻撃リスク」だ。
これまでに、いくつかの「ならずもの国家」がハッキングで世界の大企業から金を奪っていることはよく知られているが、これまでは国家レベルの「優秀な」ハッカー集団にしかできなかった高度な攻撃が、クロード・ミトスを使うことで、誰にでも、安価かつ瞬時に実行可能になる。これでは、世界のサイバーセキュリティは崩壊してしまう。
政府当局は、クロード・ミトスが悪用されて、銀行の基幹システムや決済ネットワークを瞬時に破壊し、経済的パニックを引き起こす可能性に深刻な懸念を表明したのだ。セキュリティ専門家は、この事態を「2000年問題に匹敵する、あるいはそれを超えるレベルの警報」と表現している。
これを受け、アンソロピックは「プロジェクト・グラスウィング」という管理プログラムを立ち上げた。これは、一般の人にはクロード・ミトスを公開しないこと、代わりにグーグル、マイクロソフト、JPモーガン・チェイスといった、世界のデジタルインフラを守る一握りの企業にのみ使用を許し、攻撃に対する防御手段を開発することにしたのだ。
AIが持つ「最強の攻撃力」を、「最強の盾」を作るために活用しようという逆転の発想だが、これはまさに「矛盾」の世界で、防御を固めればそれを打ち破る仕組みが出てくるという「イタチごっこ」の可能性も指摘されている。
人的ミスの教訓
人間が「賢すぎるAI」をコントロールしようとする努力が続いている一方で、それをあざ笑う事件が起きた。26年3月、アンソロピック自身が、単純な「人的ミス」によって、クロード・ミトスに関する機密情報を流出させてしまったのだ。
原因は管理システムの設定の誤りという、ごくありふれた初歩的なミスだった。しかし、その結果は重大で、極秘にしていたクロード・ミトスの機能が、数時間にわたって、全世界に公開されてしまっただけではなく、プログラム自体が一時的にダウンロード可能な状態になっていたのだ。クロード・ミトスの公開中止が、何の意味も待たなくなった可能性がある。
この出来事は、いかにAIが「完璧なセキュリティ」を構築したとしても、それを運用する人間が「たった一つの単純ミス」を犯すだけで、すべてが無に帰すという教訓を世界に示した。AIの強力な力をコントロールする上での最大の脆弱性は、いつの時代も、どんなに優れた組織であっても、私たち「人間」自身なのだ。
