確かに福音派は、中絶問題やLGBTQ問題で民主党とは鋭角的に対決してきた。トランプ政権へほぼ無条件の支持を与えてきた要因はこれである。また911テロ以降は、福音派としてはイスラム原理主義への敵視もしてきている。そのため、トランプ氏としては自分に対する支持は自動的に獲得してきたし、できていると考えてきたようだ。
けれども、トランプ氏が過去には、カジノなどのギャンブルやミスコン主催など享楽的な産業を主導していたこと、3度の結婚をしていることなど、トランプ氏の人生観とキリスト教の禁欲主義の間には、根本的な乖離がある。15年にトランプ氏が政界入りを宣言したごく初期には、福音派には明らかな困惑もあった。
今回の、寓意画の炎上や、法王との確執というのは、その意味では「調子に乗りすぎ」という反応がキリスト教の側にはある。その一方でトランプ氏の側は、LGBTQ問題や中絶問題でリベラル派という共通の敵を持ち、この点においては強く保守を代表できている自分が、どうしてキリスト教保守主義の側から疑問を持たれるのか、今ひとつピンときていないようだ。
現状への不満を解決できていない
エプスタイン問題にも似たような構図がある。15年に活動を開始して、16年に一期目の選挙に勝った頃のトランプ氏には、「自分は真面目な人間ではなく、スキャンダラスな存在感があるので、反エリートの大衆に圧倒的に支持されている」という自負があったようだ。けれども、2期目の選挙は違う。24年にハリス氏を退けてトランプ氏を選んだ有権者は一期目とは性格が異なる。
つまり、格差の拡大、将来的な雇用不安、そして何よりもインフレなど具体的な現状への不満に対して、ハリス氏よりも、少なくとも問題意識、つまり「現状の延長ではダメだ」という批判意識を持っているとして、若者を中心にトランプ氏に票が流れたのである。そこには、スキャンダラスな性格ならエリート支配を壊してくれて痛快だ、などという無責任なニヒリズムはなかった。
政権の周囲は、この辺りのムードを感じ取れていなのは明らかだ。性被害の被害者に同調して、事件を重視するのは「リベラルの言うような綺麗事」であって、トランプ式の保守主義とは整合しない、とでもいうような思い違いがあるのではないか。熱心な保守系の女性政治家が次々と離れていく際の真意を全く読めていないというのは、そういうことだ。
インフレについても同じことが言える。二期目がスタートした直後は、インフレの悪化が数字として出ると、前任者バイデン氏の責任にしていたが、既にその手は使えない。インフレ率は抑制されても、それは値上がりが止まっただけであり、スーパーで少し買物をすれば100ドルが、家族で外食すれば200ドルが飛ぶという現状が改善されるわけではない。世論の不満は根深く定着している。
