X線は放射線でない?
先日、豪州産ブドウの試食会を取材した際、オーストラリア生食用ぶどう協会(ATGA)最高経営責任者(CEO)のジェフ・スコットさんから「航空便での輸出にはX線照射が必要だが、日本向けには使えない」と聞いた。「X線」は通訳の女性がスコットさんの発言をそのまま日本語にしたものだが、日本では食品への放射線照射が原則禁止されているため、航空便で生ブドウの輸出ができないと嘆いていたのだ。
驚いたのは、X線照射を「放射線照射」と言い換えた筆者の発言に対し、周囲の記者から「X線であって放射線ではない」と指摘されたことである。
当然ながらX線は放射線の一種である。日本人は健康診断でのX線やCT検査には寛容であり、世界平均の4倍もの医療被ばくを受け入れている。一方で、「放射線」という言葉には強い嫌悪感を抱いているようで、「X線と放射線は違う」と指摘した記者も、「食品に放射線を照射するなんてとんでもない」と思っていたのではないか。
こうした放射線に対する認識のズレが、有用な技術の導入を阻んでいる一因かもしれない。
安全を「摘発」するために投じられる公金
厚生労働省は現在、輸入食品監視指導計画に基づき、検疫所で輸入食品の照射の有無を調べる検査を実施している。公表されている違反事例速報によると、25年度には4件の違反がみつかった。
違反食品は、乾燥にんにく(ガーリックスライス)、香辛料(ターメリック)、冷凍食品(しゃこ)、調味料(スイートプラムシーズニング)。これらの違反品は廃棄や積み戻し処分となったが、世界の基準に照らせば「安全」で何の問題もない食品だ。違反品を処分するコストは業者が担うが、最終的には輸入食品の価格に跳ね返り、消費者が負担することになる。
そして、もちろん監視のための検査にも人手とお金がかかる。近年は年間約700件のモニタリング検査が行われている。検疫所で職員が検査しているとみられるが、高度な知識を有する職員の人件費や検知機器の維持・管理には相当のお金がかかっているはずだ。仮に、検査を外注した場合、1検体あたりの民間検査委託料は数万~十数万円とされ、例えば1検体5万円とすれば、検査委託費は約3500万円になる。
この検査は毒物や残留農薬を調べる検査とは異なり「健康被害」を防ぐためのものではなく、国際標準の技術を日本が認めていないゆえの「ルール適合性」の確認に過ぎない。「安全」な食品を排除するための検査に多額の税金をかけているわけだ。
