2026年4月28日(火)

Wedge OPINION

2026年4月28日

 米国の動きはその象徴的な例だ。そして、より大きな潮流として見逃せないのが、ODA全体が縮小し、途上国自身による国内資金動員の重要性が高まっているという現実だ。WHOなどの多国間機関への拠出(マルチ)を減らし、二国間支援(バイ)に重心を移す国が増えているのは確かだが、それ以上に深刻なのは、援助総量そのものの減少である。途上国の保健システムが外部資金への依存から脱却し、国内の税収や社会保険制度を通じた持続的な財源確保へと移行できるかどうかが、グローバルヘルスの今後を左右する鍵となっている。

WHOが担う「規範設定」
その意義とは?

 そもそもWHOが存在意義を持つのは、一国や二国間の枠組みでは解決しえない課題に対して、国際的な「規範」・「基準」・「制度」を構築する役割を担うからだ。

 たばこのパッケージに健康警告を表示する義務は、05年に発効した「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」によって180カ国以上に課せられたものだが、こうした条約をWHOが主導して成立させた実績は、その存在意義を端的に示している。

 そのほかにも、感染症のパンデミック対応や医薬品規制の国際標準化、各国に共通する健康課題へのデータ整備と科学的助言など、これらはいずれも二国間援助では代替しえない「国際公共財」であり、WHOという場があってはじめて成立する営みである。

 WHOが担う規範設定の意義は、保健分野にとどまらない。健康の問題は、感染症のパンデミックや抗生物質などの薬が効かない病原体(薬剤耐性菌、AMR)の拡大が示すように、国境を越えて連鎖し、各国の安全保障と不可分に結びついている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、サプライチェーンを寸断し、経済に打撃を与えるだけでなく、医薬品・医療機器の生産拠点が特定国に集中していることへの脆弱性も露わにした。AMRは抗菌薬が効かない感染症を増やし、通常の外科手術やがん治療さえ脅かす。

 さらに、感染症の発生動向や病原体のデータは安全保障上の機微情報でもあり、誰がそのデータを握り、どの国際的枠組みで共有するかは、単なる保健政策の問題にとどまらない。グローバルヘルスはいまや、経済安全保障・情報安全保障と重なり合う領域となっている。


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