2026年4月28日(火)

Wedge OPINION

2026年4月28日

岐路に立つWHO
国連にも共通する組織課題

 一方で、現在のWHOには看過できない課題が積み重なっている。

 第一に、組織の肥大化による非効率の問題だ。長年の業務拡大の中で人員・組織が膨張し、意思決定のスピードと透明性が損なわれてきたと指摘されている。

 第二に、WHOが本来担うべき役割をめぐる問いだ。WHOの強みは国際的な規範・基準を設定することにあるが、近年は食料・医療物資の配布といった人道援助の現場オペレーションなど、成果が目に見えやすい活動への関与が拡大している。規範・基準を地道に作り上げる作業より、現場での援助活動のほうが支持を集めやすい面があることは否めない。その結果、「WHOは本来の規範設定機関から援助機関へと変質しつつある」との疑念が主要ドナー国の間で広がっている。

ガザ地区にあるナセル病院に、WHOが医療支援物資を届けた(XINHUA/AFLO)

 こうした二つの課題を背景に、プログラムの重点化と予算の透明化、事務局ガバナンスの強化などWHO改革をめぐる議論が進んでおり、WHOは今、その根本的なあり方を問い直す岐路に立っている。

 この状況は国連全体にも共通する。80年の歴史の中で組織は肥大化し、既得権益の維持に傾きがちな構造が生まれてきた。ウクライナや中東で続く戦争に対してリーダーシップを発揮できない現実は、安保理の機能不全を含めた国連の組織的限界を浮き彫りにしている。加盟国の多様な利害が交錯する中で、多国間機関が存在感を保ち続けるためには、その役割を再定義し、信頼を再構築する努力が求められる。

 こうした多国間機関の動揺が続く中で、日本の存在感が改めて問われている。米国という最大の旗振り役を欠いたWHOの中で、誰が議論をまとめ、規範形成をリードするのか。その問いに向き合う立場に、今まさに日本は置かれている。

 今年、日本はWHO執行理事会の代表理事国に選出されている。同理事会は毎年5月の総会に先立つ形で1月と5月に開催され、実質的な政策立案と議論をリードする場だ。今年度の理事国には豪州、韓国、北朝鮮、インドネシア、エジプトなどが名を連ねており、欧州の主要国が外れている中で、日本の存在感は一層際立つ(主要国≪G7≫では日本が唯一理事国として参画)。

 筆者も今年1月の執行理事会を傍聴したが、低中所得国の代表が声高に自国の主張を訴え、議論が沸騰する場面でも、日本の代表は丁寧に論点を整理し、各国の立場を踏まえながら落ち着いた語り口で発言を続けた。その姿に、周囲の代表たちは静かに耳を傾けていた。


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