2026年5月12日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年5月12日

 これは決して小さな課題ではない。法的規範のより一貫した執行、特権的な主体を免責する二重基準の撤廃、そして少数のためではなくすべての人々のための法への国家の再コミットメントが必要となる。

 また、遠く離れた国際裁判所を、彼らが奉仕すべき被害者や生存者により身近なものとし、国際法曹界をより多様で世界的に代表性のあるものにし、広範な参加を伴う現地での国際裁判を行うことなどを通じて、一般市民への働きかけを改善すべきである。

 もし現在のルールに基づく国際秩序の危機に対する嘆きが、その再生と再構築の原動力となるのであれば、それは皮肉ではあるが、歓迎すべき展開だろう。トランプは国際法を必要としていないかもしれないが、国際法の側がトランプを必要としていた、ということになるのかもしれない。 

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どう国際法を強化するか

 理想としては国際法の再生が実現することが望ましいが、歴史を振り返れば、19世紀末以降、国際法の強化は、世界的な破局の経験を経て平和に向けての気運が高まることにより実現してきた。しかし、留意すべきは、その都度、大国の利益優先のリアリズム外交が台頭し、国際法が無視されて再び世界的大戦に突入するプロセスが繰り返されたことだ。

 現在は、正にこのリアリズム外交の台頭が顕著になりつつある。それでもこれまでは、武力行使に訴える大国は、自衛権理論を中心に、こじつけに近いものを含め国際法上の正当化を主張するのが常であった。ところがトランプは、1月7日のニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「私には国際法は必要ない」と明言し、軍事攻撃の際に国際法を制約とは見なさない姿勢を示した。

 また、イランに関しては、発電所、橋等の無差別攻撃を示唆し、文明全体を破壊するとか石器時代に戻す等、国際人道法違反となる可能性が極めて高い攻撃を示唆する発言を繰り返した。

 このような発言は、大統領として不適切であり、内外の批判も高まっている。もっとも、国務省は、ベネズエラについては法執行措置と説明し、イランについて自衛権の行使を主張し、国際法を否定することはなく、トランプの国際人道法違反を示唆する発言についてはコメントを避けている。

 ゴールドストンは、このような危機的状況を、国際法を再構築する機会として取り組むべきだと主張するが、ロシア、イスラエル、米国および中国等の力による一方的な現状変更の試みは、被害を受ける側にとっては深刻であるが、いまだ痛みや反省が加害国を含めて共有されているという状況ではなく、いまだ平和のために国際法を強化しようという気運にはない。

 ゴールドストンが主張するように国際法の再構築の必要性について広く一般の市民の認識を深めるような努力も無駄ではないであろうが、それで諸国の政府を動かして国際法の再生への動きにつなげていくのは容易ではない。ゴールドストンは、米国外の改革派に期待しているが、むしろ、武力行使している国の国民の問題意識を高めることが効果的と思われる。


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