最初の療養が最も重要
ドイツでは、うつ病患者を対象とした個別復職支援が充実している。このプログラムに参加した129人を対象とした予後研究がある(Bergdolt et al., 2024)。追跡期間1年以内に職場復帰できたのは、半分以上の計70人であった。
職場復帰のオッズ低下、つまり、復職を阻害する因子としては、研究参加前1年間の療養日数が100日以上であること、自己評価による認知機能低下の程度が重いことが挙げられた。この研究は、従前、良好な就労歴を持ち、個別就労支援という充実したプログラムを受けられた参加者で構成されており、全体としてポジティブな結果が得られることが予想されていた。
そのサンプルにおいてすら、長期化した自宅療養が、復職を妨げることが示された。この論文が意味する事実は、自宅療養には、これ以上長期化すれば戻れなくなるポイントがあるということ、かつ、それは100日より以前である、ということであろう。
長期欠勤自体が復職を困難にすることに加えて、初回欠勤が長ければ、再度の欠勤のリスクもあがり、2回目はいっそう長期化する。この点を明らかにしたのが、日本の研究(Endo et al., 2019)である。
2回の欠勤・復職を経験した214人を対象にしたこの調査では、初回期間(107.3日)より2回目期間(156.9日)の方が有意に長かった。ロジスティック回帰分析において、「初回病気休暇期間の長期化」が、再発した病気休暇期間の長期化を予測する有意な因子として特定された。すなわち、うつ病による最初の療養期間が長いほど、2度目の療養も延長するという意味である。
精神疾患による療養後、復職を果たしても、その後、安定した就労(少なくとも1ヵ月以上継続)を続けられるものであろうか。この「復職後安定就労」(sustained return to work)に関しては複数の研究が行われている。それらをまとめた総説論文(Muntanelli et al., 2025)によれば、再発を繰り返すほど復職後就業継続が困難であることが明白であった。
そのほかにも、長期休職が再発・就労不能リスクを上げることを示す論文は、枚挙にいとまがない(Meling et al., 2023; Shiri et al., 2025)。長期化する前に介入して、早めに復職させなければならないのである。
これらの論文の結果を統合すれば、以下のようになる。メンタル疾患による休職には時間依存的リスクがある。すなわち、長くなるほど、職場復帰も、その後の就業継続も困難になる。
自宅療養は、初期には回復を促す効果がある。しかし、中期以降は、自己効力感を低下させ、職場との断絶を生み、社会的役割を喪失し、職場復帰を遠ざけることとなる。
長期休職すると、復職が困難となり、復職しても早晩再休職し、さらに長期化し、いっそう復職が困難となる。悪循環そのものである。
臨界点はどの時点か
では、どこが臨界点か。ドイツの論文(Bergdolt et al., 2024)では、100日という数値があがっている。そのほかにも、3ヵ月前後を示唆する論文は、複数ある(Meling et al., 2025; Fisker et al., 2022)。
おそらくは、臨界点は単一ではなく、複数の層として存在するであろう。インフルエンザや新型コロナ感染症で欠勤する場合、メンタル療養と比べれば、復職後の就労が安定していることは、経験的に知られている。
その場合の期間は、1~2週間であろう。この期間ならば、メンタル療養であっても、復職後の適応に大きな問題はないであろう。メンタル欠勤は、呼吸器感染症より長期化し、3週間を超えることもあるが、この3週間あたりに、おそらくは第2の臨界点があろう。
