見え始める変化の兆し
通信の未来をどう守るか
「つながる当たり前」を守るため、これまでの前提を見つめ直し、通信の社会的意義を再定義する時代にあるのかもしれない。通信の未来を守るため、業界横断的な取り組みが動き始めている。
総務省では25年10月、電気通信設備エンジニア室が発足し、これまで把握できていなかった業界に携わる人材や企業数などの実態把握に動き出した。室長の柴田輝之氏は、「電気通信事業者だけでなく通信建設会社も含めて実態把握を進めるとともに、対外発信等の業界横断的な取り組みの推進や資格の有効活用に向けた検討なども進める」と話す。
通信事業者各社が「協調」する動きも広がっている。NTTとKDDIは、20年9月に「つなぐ×かえるプロジェクト」を開始し、協調できる領域での連携を進めている。能登半島地震での対応を契機に、24年12月にはソフトバンクや楽天モバイルも参画し、通信事業者8社の足並みが揃った。各事業者で避難所支援エリアを分担することでこれまで発生していた重複や偏りを減らすなど、災害対策における人的資源や物資の効率化を図っている。企業の垣根を越えて「社会全体で通信を守る」発想が広がりつつある。
通信業界では長年、顧客獲得をめぐる価格競争が続いてきた。だが、これまで見てきたように、通信設備の維持や人材確保などといった通信を支える側に負担を強いている現実はもっと共有されるべきではないか。
通信業界の現状について、東京大学大学院工学系研究科教授の森川博之氏は「競争だけでなく、社会インフラとしてどう維持していくのかも考えるべき時代に入った」と指摘し、こう続ける。
「競争は重要だが、市場は万能ではない。通信が社会インフラとなった今、利益が出にくい分野でも持続的に設備投資できる仕組みを考える必要がある。通信事業者側も、『料金を上げるには付加価値が必要』という発想だけではなく、インフラ維持という視点で料金体系を考えていかなければ、守れるものも守れなくなる。例えば、航空業界のような燃油サーチャージ制度の導入や、ビル建設時の駐車場設置義務のように基地局設置も義務化するなど、他業界の仕組みを参考にしながら、通信のあり方を柔軟に考えていく必要がある」
長年、通信建設会社で勤務する社員も「通信業界に携わる人材や企業を把握できていない現状を変えなければ通信の未来はない。業界自体の変革も必要だ」と強い問題意識を示す。
インターネットによってSNSや動画配信サービスなどが開花したように、これからも新しいサービスが続々と誕生するだろう。通信はこれからも間違いなく進化を遂げる。通信の進化を社会や産業の発展に結びつけることは、日本の経済成長のエンジンにも、国際競争力にも直結する。
構造的課題が浮かび上がる今、持続的な設備投資ができる体制を構築できるかどうかが、「つながる当たり前」を守り、新しい付加価値を生み出す分水嶺になるのかもしれない。
