2026年6月20日(土)

食の「危険」情報の真実

2026年6月20日

喫煙に次ぐリスク

 日本でアルコールが原因とされる死亡は年間およそ3万5000人(全死亡の約3.1%)と推計されている。これは、2008年に厚生労働省研究班が、肝硬変の40%、浴槽での溺死の34%などがアルコールに起因するとする米国研究を参考に、日本の人口動態統計や患者調査のデータで推計したものだ。

 データが古く、近年の男性飲酒量の減少を反映していないなど問題はあるが、年に3万5000人の死亡者は多いといえるのか。リスクの大きさを知るには、他のリスクとの比較が有効だ。この推計値を他のリスクと比較してみよう。

 年間死亡者数は、喫煙(能動)が約13万人、受動喫煙が約1.5万人、交通事故が約2700人、殺人が約1000人。つまり、アルコールは、喫煙には及ばないが、受動喫煙の2倍以上、交通事故の十数倍のリスクがあることになる。

社会的損失は4兆円超

 これだけ高いリスクがあることを考えれば、国税庁の対応は遅きに失しているといえないだろうか。ただ、国税庁にとって酒による税収は安定した主要財源の1つ。その額は年間1兆1000億~1兆2000億円にのぼり、消費税や所得税に及ばないものの大事な収入源となっている。「酒のリスクを発信しすぎれば、この貴重な税収を目減りさせかねない」との考えが担当者の頭をよぎっても不思議ではない。

 酒が大きな税収源であることは確かだが、その一方、酒による医療費や経済活動の停滞といった「社会的損失」は年間約4兆円~6兆円にのぼると試算されている。つまり、国庫を潤す税収の少なくとも4倍近いツケを、社会全体が支払わされていることになる。この事実を前にすれば、飲酒の有無は個人の嗜好で片付けられるものではなく、公衆衛生上の介入対象とすべきものであることは明らかだ。

どうする減る税収

 飲酒リスクの周知が進み、公衆衛生上の介入が本格化すれば、当然ながら国民の酒離れが進み、国税庁が懸念する「酒税収の減少」が現実味を帯びてくる。この減る税収をどう補っていくのか。直近では、10月に酒税法の改正が控えている。しかし、この改正による効果はほとんどないとみるべきだろう。

 では、今後の財政と国民の健康をどう両立させるのか。参考になるのが「たばこ税」だ。税額を上げることでたばこの価格は大幅に上昇し、販売本数はこの30年間で激減した。

 ところが販売量の低下と増税のバランスにより、たばこ税全体の税収はほとんど変わっていない。お酒もこれと同じ道をたどるのだろうか。

 社会にはびこるリスクの誤解是正に力を尽くしている東京大学の唐木英明名誉教授は、「健康被害防止のために、国税庁がHPの飲酒のメリットを削除したのは当然だ。次に行うべきは酒の消費量を減らすことで、その手段として、世界保健機関(WHO)は酒税を上げることで酒の価格を上げることを推奨している。しかし、酒が金持ちだけの楽しみになることを人々は許容するだろうか。米国の禁酒法の教訓があるように、酒の制限は国民的な反発を生むだろうから、うまくいくかは分からない」と話す。

 飲酒に対する世間の目がさらに厳しくなるのは必至で、「ストレス発散」や「飲み会の楽しみ」で飲酒してきた人にはつらい時代となりそうだ。「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録され、ウイスキーやクラフトビールなど〝日本ブランド〟が世界でも評価されつつあるアルコール産業にとっても逆風と言える。発想の転換も必要だろう。


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