彼らはウクライナのためではなく、ロシアの弱体化のために戦っている。カディロフ亡き後の権力の空白を見逃さないだろう。仮にカディロフの死亡とウクライナ停戦の実現が重なるようなことがあれば、彼らは間違いなくチェチェンでロシアと戦おうとするだろう。
第二は、ウクライナ戦争による財政難でモスクワの資金援助が細っていく可能性だ。もともとチェチェンの安定は、カディロフによる強権政治と彼の個人的権威、そしてモスクワの軍事的・財政的支援によって支えられてきた。カディロフが死亡し、ウクライナ戦争による財政難でモスクワの資金援助が細って行けば、ロシアが望むような政権を安定的に維持することは難しくなるだろう。
さらに、今後武力紛争が生じた場合には、ウクライナ戦争で手一杯のロシアには十分な部隊をチェチェンに送り込むことが難しくなろうが、ロシアによる支援が十分でないとの期待感自体が、反乱に向けた行動を促す可能性がある。
第三は、中東湾岸地域の不安定化との関係だ。中東各地にはチェチェン人ゲリラ、過激ジハード主義者たちが多数活動している。
彼らは、ウクライナで戦っているチェチェン人兵士と必ずしも同じではなく、「グローバルジハード」およびロシアでは「北カフカスにおけるイスラム国家の樹立」を目指している。彼らはポスト・カディロフの空白を狙って戻ってくる可能性があり、プーチンにとっては「テロとの戦い」の再来となる。
失われる二つの意義
今後、チェチェン紛争の再来という事態になれば、プーチンにとってのダメージは計り知れない。それは、「ロシアのコントロール下にあるチェチェン」がもつ、少なくとも以下の二つの意義が失われるからだ。
第一は、ロシア連邦の一体性の維持という、プーチンが大統領就任以来最も重視してきた目標達成の象徴としての意義だ。
2000年5月、プーチンが大統領に就任した時、彼にとって最大の課題は、彼自身が「20世紀最大の地政学的悲劇」と表現したソ連邦崩壊のような事態を二度と起こさないこと、つまりロシアの国家としての一体性を確保することであった。そして、そのような国家的課題の解決を妨げている最も深刻な問題のひとつが、チェチェン紛争であった。
