2026年7月9日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年7月9日

 しかし、ロシアによるウクライナ侵攻が起こって、フィンランドは翌23年、NATOに加盟した。そして今日、同国は既にヨーロッパ屈指の軍事力を擁し、社会全体が緊急事態への備えと防衛に注力している。

 この変化は、核兵器を増強し、核搭載機の一部を同盟国に配備しようとしているフランスとの連携強化につながる可能性がある。フランスのマクロン大統領は3月、この計画を「前方」核抑止計画と表現した。

 ヘルシンキ大学のパトマキ教授は、「フィンランド国内で、ここ数十年で最も不安が広がっている」とし、「軍事力と抑止力が強化されるにつれ、不安感と武力衝突の可能性が高まる」との見解を述べた。

* * *

ロシアの行動原理に基づく対応

 フィンランドは冷戦時代の87年、原子力利用を平和目的に限定することを主眼とする原子力法を制定し、核爆発物の製造、輸入、保有、爆発等の完全禁止を規定した。日本の「非核三原則」は国是とは言え政策であるが、フィンランドは法律上の義務としたのである。

 ところが、ロシアのウクライナ全面侵攻を受けて、フィンランドは中立政策を放棄し、23年には NATO加盟を果たした。フィンランドの完全核禁止は、NATOによる安全保障上の核抑止力の提供を自ら拒否しているに等しい。

 そこで本年4月、フィンランド政府は、核の「持ち込み」を可能とする原子力法改正案を議会に提出し、今般、これが可決された。なお、核の「持たず、作らず」は引き続き維持されている。

 本件記事は、今回の法改正がロシアを刺激することのリスクを強調しているが、そのこと自体は間違いではない。フィンランドは、現時点では、有事の際に米国の戦術核を自国の戦闘機に搭載して攻撃するという核シェアリングの対象国にはなっていないが、今回の法改正は、対象国となるための法律上の障害がなくなったことを意味する。

 さらにフィンランドは、21年12月、ホーネットの後継機として米国から調達する戦 闘機の中にF-35ABlock4×64機が含まれることを明らかにした。同機は米国のB61-12戦術核爆弾の運用能力をもつことが可能な最新型ステルス戦闘機だ。これはロシアにとって、モスクワまで最短わずか800-900kmのフィンランドが核シェアリング対象国になったのと同様の効果をもつ。ロシアを「刺激することになる」というのは、その通りだ。

 しかし、そのようなロシアの反応を十分承知の上で、フィンランドは今回の法改正を決定した。それはロシアの行動原理に対する深い理解に基づいている。


新着記事

»もっと見る