70年代後半、当時のソ連が欧州全土をカバーする中距離核ミサイルSS-20をソ連欧州部に配備したのに対し、米国は同じく中距離核ミサイル・パーシングII、巡航ミサイルの配備で対抗した。これに対しソ連は激しく反発し、西側世論においても反対の声が少なくなかった。その結果、米ソ間の交渉の末、中距離核戦力全廃条約(INF)が合意された。
翻って今日、欧州の戦略環境を見れば、ロシアは地上発射型、海上発射型、航空機発射型等、多様なミサイル構成で多層的な核攻撃を加えることができる。これに対しNATO側は、核シェアリング対象5カ国(独伊蘭白土)の米戦術核、フランス空軍の極超音速巡航ミサイルと海軍の 潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、英海軍のSLBM(いずれも戦略核)くらいで、欧州戦域における核戦力は総じてロシアが優位だ。しかも昨年11月、プーチンは、欧州全域をカバーし得る新型核・非核弾道ミサイル・オレシニクの量産を指示し、同ミサイルのベラルーシへの実戦配備も決定している。
今日の安全保障環境は、INF条約署名に至った87年に比べ遥かに複雑ではあるが、ロシアの行動原理は変わらない。力で押しかえす可能性を知らしめることなくして、ロシアの行動を変えることはできない。そしてNATO加盟を果たした今、フィンランドにはそれが可能になったのである。
日本における「非核三原則」の議論
最後に、日本においても「安保3文書」改訂の議論の中で「非核三原則」を修正して核の「持ち込み」を認めるべきかが大きな焦点の一つとなっている。今般のフィンランドの政策転換は、日本における議論にも参考になろう。
そもそも日本の「非核政策」は、原爆投下による凄まじい被害という現実の経験に立脚した核兵器そのものに対する激しい嫌悪感や反戦思想、人道主義を中心とする思想的な基盤をもって語られることが多い。ロシアとの慎重な関係で中立を選び全面核禁止を行ってきたフィンランドとは歴史と環境が異なるが、現実的な核の脅威に直面してフィンランドが安保政策の大転換を遂げたことを学ぶのは、日本における「非核三原則」見直しの議論を一層深めることに繋がるだろう。
