周知のとおり、この侵攻を受けて体制存亡の危機に直面したイランは、周辺諸国に置かれた米軍の拠点などを次々と攻撃対象としたほか、ホルムズ海峡を実質的な封鎖下に置き、世界経済を人質に取りつつ抵抗を続けた。その結果、米国にはイランを屈服させることができなかったのみならず、ホルムズ海峡を力によって開放できないことが明らかになった。それを悟ったトランプ政権はイランとの交渉を開始し、6月17日には米・イラン間で、終戦に向けた覚書合意が成立した。
今回の侵攻を契機に、イランはホルムズ海峡を〝自らの武器〟として利用し始めた。イランは今や、ホルムズ海峡の「管理権」をも主張し始めており、このことは戦後の中東秩序に大きな影響を与え得る。
イラン戦争を機に生じた
中東秩序の新たな動き
これに加えて、今回の戦争は、湾岸諸国内の相違も露呈させた。具体的には、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の間の亀裂が深まり、UAEはイスラエルとの安全保障協力を深めた一方で、石油輸出国機構(OPEC)からの脱退を決定した。
UAEはもともと20年8月に、イスラエルとの関係正常化合意を結んでおり、サウジアラビアとは一線を画す行動を取っていた。そのUAEはイラン戦争において、イランからの3000回以上の攻撃にさらされ、サウジアラビアを筆頭とする周辺諸国がUAEの(イランへの)反撃を支援してくれることを期待した。しかし、周辺諸国は戦火の拡大を望まず、UAEは独力で自国の安全保障を確保する方向に舵を切った。UAEのOPECからの脱退は、その一環としての行動である。
OPECでは長年にわたり、サウジアラビアのリーダーシップのもとに生産量を低く抑え、原油価格の下落を防ぐ政策がとられてきた。これにUAEは不満を有しており、「自国ファースト」の安全保障政策の追求を余儀なくされる中でOPEC脱退に踏み切った。UAEには脱炭素時代に入り石油が座礁資産となる前に、可能な限りこの資源を有効活用したい考えがあり、日本にもすでに輸入の増加を持ちかけている。
イラン戦争はまた、米国とイスラエルの間にも隙間風を生じさせた。ホルムズ海峡封鎖の長期化は、米国内のエネルギー価格の上昇につながり、中間選挙を控えるトランプ政権には不利である。そうであるにもかかわらず、米・イラン間の覚書の前提であるレバノンにおける停戦をイスラエルが尊重しないことに、トランプ大統領はいら立ちを示した。
米国とイスラエルの関係は簡単に揺らぐものではないとはいえ、米国がイスラエルと距離を置くような行動が、今後の中東秩序に与える影響が注目される。
