2026年8月16日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2026年8月16日

日本人が「何者か」になれる土地 屏東に根を下ろした人たち

 屏東には今、様々な形でこの地に魅せられ、移り住んだ日本人たちがいる。

 三味線奏者の志甫一成さんは、2011年の東日本大震災を機に台湾に強い関心を持ち、屏東をベースに活動を始めた。「台北や高雄は物質的には日本と変わらないが、屏東では自分が特別な存在になれると感じた」その言葉は、この土地が持つ独特の引力を端的に表している。屏東の人々は演奏に大きな反響を示し、今や「屏東の日本人三味線奏者」として地域に根付いている。

 また、台湾人の妻・りなさんと屏東・恒春で日本料理店兼民宿を営む日本人の河合賢二さんの話も印象深い。野球場でりなさんから公開プロポーズを受け、台湾のニュースになったというふたりの物語は、日台のつながりが人と人の間でいかに育まれてきたかを示している。

「藍皮解憂号」と鉄道遺産 日本製の車両が走る絶景ルート

 鉄道ファンにとって、屏東は特別な場所でもある。2021年秋に運行を開始した観光列車「藍皮解憂号」は、屏東の坊寮駅から台東の台東駅を結ぶ南廻線を走る。車両は新潟鐵工所・近畿車輛・富士重工業(現SUBARU)という日本の3社が製造したものだ。1910年代から使われてきたレトロな客車には今も昔ながらの扇風機が残り、窓を手で押し上げると、左右に広がるマンゴーの花や絶景が飛び込んでくる。

 「大人気でなかなか予約が取れない」と地元の人も認める人気ぶりで、日本からも鉄道ファンが続々と訪れている。台湾に残る日本の鉄道遺産を感じながら走るこのルートは、屏東と日本の深い縁を改めて実感させてくれる体験だ。

先住民・客家・閩南 多様な文化が交差する「食と工芸の宝庫」

 屏東の豊かさは歴史だけではない。パイワン族をはじめとする先住民の文化、独自の美意識を持つ客家の伝統、台湾料理のルーツとも言える閩南系の食。これらが一つの場所で混ざり合っている。

 台湾人が「屏東好味道(おいしい屏東)」と呼ぶほど、先住民料理・客家料理・台湾料理が本物の味で揃う。また、屏東県の原住民族で初めて「人間国宝」の称号を授与された織物師・許春美師のような継承者たちが、失われかけた伝統工芸を次世代へとつないでいる。墾丁や小琉球の海、霧台の山岳地帯など、自然環境の多様さも他の地域の追随を許さない。


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