2026年7月24日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年7月24日

運用上の混乱招く恐れ

 トランプが貿易赤字は悪であるとの執着に凝り固まっている点は、不治の病のようなものでどうしようもないが、特にメキシコとの関係では、貿易赤字が縮小しておらず、米中貿易戦争の結果、メキシコ経由の中国製品の対米迂回輸出が増加していると認識していること、そして、その結果として米国への製造業の回帰や雇用創出の面で期待した成果が上がっていない原因はUSMCAにあるとして、その改定を要求し、時には脱退も辞さないと発言してきた。

 本年7月1日が、協定を見直すか、現状のまま効力を16年延長するかの期限であったが、米側は協定の改正を要求しつつもそのようなタイミングで交渉を進めて来なかったわけで、単純延長を拒否することは分かっていたことではある。これにより毎年の見直し交渉が継続するプロセスに入るが、トランプ政権は、ビジネス環境の不確実性という悪影響よりも、延長を拒否する強硬姿勢を取ることにより米国にとって有利な交渉を進めることができると考えているのである。

 米側の要求の一部は、既に行われたメキシコとの二国間交渉である程度明らかになっており、自動車の北米原産地規則の強化、部品類や電気自動車(EV)関連部品への原産地規則の適用拡大、中国からの迂回輸出の防止や対メキシコ投資の制限、労働・環境分野での規制の強化、農業市場アクセスの改善等が優先されている。特に、自動車の原産地規則を現行の75%から82%への引き上げおよびその内米国産比率を50%以上とする点は、米国市場への輸出を目的とする在メキシコ自動車企業にとって留意すべきであろう。

 ヒーバートの論説では、交渉がいつまで続くのかについての言及はないが、トランプのこれまでの発言とその性格からすれば、自分の任期内(2029年1月まで)に、USMCAの改定を行い、自らのレガシーとしたいのではないかともみられる。他方、カナダを含めた全面的な改定合意に達するのは容易ではないので、交渉が進んでいるメキシコとの間で原産地規則や中国の迂回輸出の防止策などについての部分合意の可能性もあり得よう。USMCAよりも厳しい基準にするのであれば、理論上は、部分合意はあり得るであろうが、運用上の混乱を招く恐れがある。


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