2026年7月27日(月)

台湾「麗しの島」の実像

2026年7月27日

 初期のTSMCの営業目標は年間売り上げ100億台湾ドル。モリスはワールドクラスの企業にしたいと常に言っていたが、100億台湾ドルは台湾でトップ20に入るぐらいの規模感だった。現在のTSMCは売り上げが年間1000億米ドルを超え、半導体製造で世界一になり、全体の世界企業でも時価総額トップ10に入る。TSMCはすっかり大きくなり、実際の笑い話だが、外部の顧客と会議を開く時に初めて知り合いになる同僚がたくさんいる。20年前では想像がつかないほど巨大になった。

 モリスは経営者としてなすべきことをほぼすべて成し遂げて引退した。唯一の不満は「現在の社員持ち株比率が2%しかないことだ」と言っていた。もし社員が持ち続けていたら15%ぐらいになっていただろう。だがみんな早くに売ってしまった。TSMCのその後の株価からすれば社員や元社員は大きな損をしてしまったと言えるだろう。

ラピタスが持つ
人材という課題

 日本のラピダスについては私のTSMCでの経験からいえば、生産規模と大きな顧客、それに伴う協力企業らのエコシステムの確保に事業の成否がかかっている。

 新しい工場や新技術の場合、初期の立ち上げ段階では、データや経験を蓄積するために大量のウェハーを投入する必要がある。これこそがラピダスが収益性の高い生産を実現する過程における最大の課題になるだろう。半導体では多くの日本の材料・装置メーカーが陰の立役者として活躍しており、TSMCや台湾の他のメーカーとの提携の可能性を検討してもいいだろう。まず規模を確保することが重要だ。

 ラピダスの課題は人材かもしれない。社外取締役である西義雄氏(6月30日退任)などは40年前から半導体業界で著名な人物だが、現在86歳である。日本には今、この業界に参入する若者がさらに必要ではないか。私もこの業界に入った時期は若くて活力のある年代だった。日本が気力・体力が充実した次世代の半導体専門家を多く養成しなければ、日進月歩のこの業界を勝ち抜くことは難しい。モリスが育てたエンジニア重視、人材重視の文化はいまもTSMCの根幹にある。技術は人間が生み出し、育てるものだからだ。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2026年7月号より
エネルギー依存国家・日本 持たざる「弱み」を「力」に変えよ
エネルギー依存国家・日本 持たざる「弱み」を「力」に変えよ

ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、世界のエネルギー情勢に激震が走った。日本はこれまで気候変動対策や脱炭素をより重視する姿勢を貫いてきた。しかし、従来の「前提」を根底から見直す局面に立たされている。また、各地で原発の再稼働が進みつつあるが、「核燃料サイクル」実現を進めていくうえで、課題は山積している。だが、思考停止に陥ってしまえばこの現状を打破することはできない。今こそ、日本は「ひよわな花」であることを自覚し、持たざる「弱み」を「力」に変えていく時だ。

 


新着記事

»もっと見る