ロシアもベラルーシも「大祖国戦争」でのナチス・ドイツに対する勝利の体験を共有しているものの、ベラルーシの地はナチスによる約3年に及ぶ苛烈な占領を経験し、住民の3分の1もが失われる悲劇を味わったため、国民の戦争に対する拒絶反応がとりわけ強いのだ。その点、「勝利は再現できる」と考えがちなロシアとは、だいぶ異なる。いかにルカシェンコ氏が絶対的な権力を確立していても、自国軍を出すような判断を下したら、民心が決定的に離れることになりかねないのだ。
いずれにしても、ロシア・ウクライナ戦争において、ベラルーシという要因は、刻々と役割を変え、今に至るまで直接参戦という事態は回避されているものの、常にその出方が注目される「ワイルドカード」のようになってきたわけである。
支援打ち切りをちらつかせる
プーチン氏からの参戦圧力をはぐらかし続けてきたルカシェンコ氏であるが、最近になっていよいよその圧が強まっているという情報がある。ウォールストリートジャーナルが6月23日に伝えたところによると、ロシアは今年初めから、財政支援を打ち切ることをちらつかせながら、ウクライナへの攻撃やNATO加盟国に対するハイブリッド作戦のためにベラルーシ領土の利用を求めているという。情報筋によると、交渉は主にグリズロフ駐ベラルーシ・ロシア大使が主導している。
6月25日、ルカシェンコ氏はミンスクで、ロシアのグリズロフ大使、ヴォロビヨフ・モスクワ州知事と会談した。この席でルカシェンコ氏は、クレムリンがグリズロフ大使を通じてベラルーシに紛争へのより積極的な参加を働きかけていることを初めて公に認めた上で、ベラルーシはウクライナに対する軍事行動に加わるつもりはないと発言した。
「戦争に巻き込まれるようなことはすべきではない。それに、『グリズロフ大使が我々を戦争へ引きずり込む段取りを進めている』などと、そんな方向へ話を持っていく必要もない」と、ルカシェンコ氏はグリズロフ氏に向かって述べた。
この会話の映像は、ルカシェンコ氏のテレグラムチャンネルで公開された。ベラルーシの国営通信社ベルタは、この発言が大使に向けられたものであると報じたが、ロシア国営タス通信はこの発言を伝えなかった。
ルカシェンコ氏はまた、この問題についてプーチン大統領と繰り返し協議し、「ベラルーシ国民はウクライナ人と戦いたくない」と繰り返し伝えたと付け加えた。その一方で、経済や安全保障の分野においてロシアをサポートする用意があるとの立場を示した。
燃料危機のロシアに救いの手
ルカシェンコ氏が述べた「経済や安全保障の分野においてロシアをサポート」という問題に関して言えば、当面焦点となるのは、ベラルーシからの燃料供給であろう。ベラルーシには、モズィリ、ナフタンと立派な製油所が2箇所あり、ウクライナのドローン攻撃を受け製油所がダメージを受けているロシアにとっては、当てにしたい存在である。BBCロシア支部が7月17日付で本件に関するレポートを発表している。
レポートによると、6月1~25日にベラルーシがロシアへ輸出したガソリンは14.1万トン(t)となり、過去最高を記録した。これは5月全体の約2.5倍、ベラルーシの月間ガソリン生産(約30万t)の約半分に相当する。
一方でロシア全体から見ると、夏季の需要は1日11万~11.5万t程度なので、この輸出量でもロシア全体では約1日分にしかならない。ベラルーシにとっては非常に大きい輸出だが、ロシアにとっては「応急措置」に過ぎない。
ベラルーシの石油製品全体の輸出量は前年とほぼ同じだった。つまり、ベラルーシは新たにガソリンを大量増産したのではなく、第三国向け輸出をロシア向けへ振り替えた可能性が高い。
ロシアではベラルーシ製ガソリンが1t当たり1620ドルで売れている。一方、国際市場ではオクタン価95(AI-95)は約1100ドルであり、現状ではロシアへ売った方がかなり高く売れる。したがって、ベラルーシ当局がロシア向け輸出を増やすのは十分合理的だった。
