ロシア向けガソリン輸出が増えたからといって、ベラルーシ国内では欠乏しない。燃料は政治的に敏感な商品なので、当局が厳格に管理している。国内供給量は行政命令で維持されるため、ロシアのような給油所の行列は起きないと予想される。ただし、価格については別問題であり、ベラルーシ国内価格は引き続き補助されるものの、輸出の方が利益は大きいため、価格上昇が加速する可能性がある。
ロシアの危機が長引けば、ベラルーシの製油所はまだ稼働率を引き上げる余地があり、マクロ経済的にはプラスになる可能性がある。
危機を理解するルカシェンコ
最後に、ベラルーシを代表する政治評論家のカルバレヴィチ氏が最新のコラムで、ロシアとウクライナの間で板挟みになるルカシェンコ氏の苦悩について論じているので、以下要旨を紹介する。
1年前ならプーチンは「勝利」を宣言できた。しかし今は「停戦=敗北」になってしまった。ここ半年ほどで、前線は膠着、兵員確保が困難、財政赤字拡大、インターネット障害、ドローン攻撃の日常化、製油所攻撃による燃料不足、クリミアの物流・電力問題などが発生し、戦争が一般市民の日常へ入り込んでしまった。特にクリミアは、プーチン体制の正統性、帝国復活の象徴そのものであり、それが逆に「アキレス腱」になってしまった。
そのため現在では、戦争を止めれば「ロシアは追い込まれて停戦した」と国民もエリートも受け止める。だからプーチンは、政治的に停戦できなくなった。
対するウクライナは、自信を深め、プーチンを公然と挑発するようになった。さらに、米国のトランプ大統領も「ウクライナにはカードがある」と認識し始めた。秋にはゼレンスキーが選挙実施を考えている可能性もある。こうした状況では、ウクライナ側にも妥協する誘因がない。
ベラルーシにとってロシアは安全の保障ではなく、リスクとなった。ルカシェンコは、ロシアとの同盟、ロシアの核兵器配備、オレシュニク配備などを安心材料と考えてきた。ルカシェンコ自身も、「核兵器を持つ国は爆撃されない」と語っていた。しかし現実には、ロシア自身がドローン攻撃を防げず、本土を守れず、戦争の被害を受けている。ロシアの傘は穴だらけだったのだ。
ロシアが今後エスカレーションを図るなら、戦術核、ベラルーシ経由での通常戦力投入、NATOへのハイブリッド戦などが考えられる。むろん、エスカレーションの方向に進むとは断言できないが、いずれのシナリオでもベラルーシが利用される恐れがある。
ルカシェンコにとってみれば、今ロシア側に立って戦争へ深く関与することは、ロシアが勝っている戦争ではなく、むしろ危機へ向かっている戦争に乗ることになる。それは、ルカシェンコ体制にとって政治的自殺になり得る。
さらに、22年にはベラルーシ領からロシア軍が侵攻しても、ベラルーシは実質的な報復を受けなかった。しかし今では、ルカシェンコ自身も認めるように、ウクライナのドローン攻撃能力は向上し、ベラルーシ領土も十分攻撃対象になり得る。
ルカシェンコ自身も、危険性は理解している。しかし、現在のルカシェンコの戦略は、「何とかなることを祈るしかない」という受動的なものになっている。
カルバレヴィチ氏は、ルカシェンコ氏の苦境を、以上のように描いている。個人的に、暴君に同情するつもりはないが、ロシア・ウクライナ戦争の行方にかかわってくるだけに、ワイルドカードの動向は大いに気になるところである。
