2026年8月20日(木)

スポーツの新潮流

2026年8月20日

 その問題意識は、育成年代への提言にもつながる。桑田さんは大学院で学んだ『スキャモンの発育曲線』を用いて、こう説明する。

 「体格差が大きい少年野球では、『遠くに飛ばす』『速い球を投げる』選手が重宝されます。でも、人間の筋力や体格は成長と共に伸びていく一方で、神経系は幼少期に大きく発達し、高校生までが重要。だからこそ少年時代に練習すべきは、パワーやスピードではなく、狙ったところに投げるコントロールやバットの芯で捉える技術なのです。

 思い返せば、私が幼少期に父と行ったキャッチボールもそうでした。父は構えたところから外れた球は一切捕ってくれなかった。逸れたら自分で取りに行かなければならず、私はよく腹を立てていました。ですが今思えば、それが自然と私の神経系やコントロールを磨いてくれていたのだと思います。父にどこまで意図があったかは分かりませんが、理にかなった指導だったわけです」

前例にとらわれない発想で
スポーツの未来を考える

 桑田さんが危機感を抱いているのは競技レベルや育成方法だけではない。野球界の未来にも、大きな問題意識を感じている。

 「私たちの時代から、野球の競技人口は約6割減りました。選手が減り、ファンが減り、スポンサー企業も減っていく。このままでは野球がマイナースポーツになるのではないか、と強い危機感を持っています」

 だからこそ、これまでの枠組みにとらわれない発想が必要だという。

 「ファンを増やし、競技を維持・発展させていくために知恵を絞らないといけません。例えば、現在12球団あるプロ野球の球団を増やすこともそうですし、日本の枠を越えて、韓国、台湾、オーストラリアなどと共にアジアリーグをつくることも一案です。それに中国が加われば、市場は一気に拡大することでしょう」

 さらに、プロとアマチュアの壁にも問題意識を示す。

 「プロ野球関係者は、原則として学生野球の指導者や部員になることができません。プロ・アマの隔たりをなくし、共に野球界の未来を考える基盤を構築していくべきです」

 一方で、伝統をすべて変えればいいわけではない。その象徴が高校野球の7イニング制をめぐる議論だ。

 「僕は絶対、反対です。甲子園は第1回大会から9回、27アウト制でやってきた。野球は7~9回にドラマがある。監督やコーチの起用法も終盤になるほど重要です。野球は3つのストライク、3つのアウト、序盤・中盤・終盤など、〝3〟という数字におもしろさが詰まっています。甲子園・9回・27アウト制を守るために何を変えるべきかを考えてほしい。試合日程など、野球界全体でできることはたくさんあります」

 桑田さんと話して感じるのは、野球を単なる競技としてではなく、人を育て、社会に貢献する力を持つものとして考えていることだ。かつて飛田穂洲が説いた「野球道」の精神とも重なる。桑田さんはこう語る。

 「スポーツを経験した人がそれぞれの組織や社会で活躍し、その場所を強くしていく。その組織や社会が、スポーツができる環境を支えてくれる。スポーツから始まる循環が地域と日本社会の未来をつくっていくのではないかと思っています」

 最後に、今後の人生設計について聞くと、こう断言した。

 「高3のドラフト会議の時、すごく苦しかったんです。その時に『60歳まで頑張ろう』と思って、人生設計を立てました。40歳までは現役で頑張る。その後、10年間は勉強する。そこから10年間は指導者をやる。

 17歳の時に60歳以降のことを考えていませんでしたが、これからは日本野球界をより良いものにして、次の世代に引き継ぎたいですね」

桑田さんの「挑戦」はまだまだ続く(WEDGE)
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Wedge 2026年9月号より
日本スポーツ界の新潮流 変革の時をつかめ
日本スポーツ界の新潮流 変革の時をつかめ

大谷翔平、三笘薫、北口榛花、阿部詩、八村塁、松山英樹……。世界で活躍する日本人選手がここ最近、増え続けている。国内では、スポーツの力をまちづくりへ生かそうと、スポーツ界・民間・行政の連携も広がっているほか、新たな競技の普及も進んでいる。一方、少子化などの課題は競技人口にも影響を及ぼし始め、精神論や根性論など「昭和的価値観」の指導のあり方も見直され始めた。まさに、日本スポーツ界は変革の時を迎えている。新潮流を、日本社会へどう生かしていくか─。32年ぶりに日本でアジア大会が開催される今、その可能性を探りたい。


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