地銀など制度開始直後から事例相次ぐ
5月25日のスタート以降、第一号案件が相次いだ。地方銀行の第四北越銀行(新潟県)は建材販売・施工、精密プラスチック部品製造などを手掛ける企業に対して、日本政策金融公庫新潟支店と協調して融資を実行。東邦銀行(福島県)は、クラフトジンを蒸留・販売する企業に融資した。武蔵野銀行(埼玉県)は、建設資材卸売り会社に対して、地域のインフラ事業を支える資金を提供。第二地方銀行の北洋銀行(札幌市)は北海道網走市内の旅館業に対して、ファンドからの借り換えおよび社債返済の資金として融資。
また、協同組織金融機関でも横浜信用金庫(神奈川県)や岐阜信用金庫、大阪シティ信用金庫などでも取り扱いを開始。融資金額は非公表のことが多いが、「数億円程度」(九州地区地域銀)という。第四北越銀は、「地域のお客様に成長資金を円滑に供給するとともに、企業価値向上に向けた支援に積極的に取り組んでいく」としている。また、東邦銀は、「今後の成長に向けた資金供給と財務基盤 の安定を図るとともに、タイムリーな伴走支援を継続して取り組んでいく」考えだ。
ただ、事業会社にとってメインバンクが変わる可能性もある。「企業価値担保権を設定した金融機関がメインバンクになる」(大手信用金庫)として、取引金融機関の位置づけがより明確になる。また、事業計画から大きく変わる場合は事前にメインバンクとの意思疎通や同意が必要になることもある。企業にとって事業展開上、金融機関の関与が高まり経営の自由度に影響が出る可能性もある。
期待する中小企業等やスタートアップ
企業価値担保権付き融資の課題ひとつが「引き当て等の考え方」だ。導入前に全国地方銀行協会が集約した会員行からの意見・質問等でも、「引当方法」に関する内容が多かった。不動産など処分可能な「一般担保」と異なり、評価額の算定が難しい。また、「無担保融資」のように損失可能性を予測し貸倒引当金を計上する点とも異なる。新たな制度は、企業の資産すべてを担保に融資するものだが、実行後のモニタリングや支援などで企業価値を向上することが重要だ。不動産などの資産が乏しくても、企業の成長力などが期待されれば資金を調達することが可能。同制度は中小企業や小規模事業者、スタートアップへの適用が有効だ。
企業価値担保権を活用した融資制度は、将来の企業価値向上をめざしたものだが、必ずしも順調に企業が成長するとは限らない。債務の弁済が滞った場合の対応も大きな課題だ。担保権を実行する際、担保権者が裁判所に申し立て、管財人が選任される。そして事業継続に必要な商取引や従業員の賃金などを優先して弁済する必要がある。さらに、裁判所の許可を得てスポンサー企業に事業を譲渡される場合は金融機関等には譲渡額から債権が充当される。
金融機関にとって、これまで不動産担保融資に過度に依存した結果、バブル経済崩壊後の長期にわたる低迷期を経験してきただけに、「目利き力」不足と「予兆管理」の重要性を再認識した格好だ。新たな制度は、日本経済の成長を金融面から後押しようとする政府の意向が強いが、それに呼応するには金融機関自身の行動変容がカギとなる。
