ドイツの戦争回顧の中心は加害者責任
筆者は、NHK記者だった1989年に「ナチス時代の過去との対決」をテーマにしたNHKスペシャルの制作に携わった。90年にNHKを退職して以来36年間ドイツに住み、このテーマと取り組んできた。
ドイツの戦争との向き合い方は、日本と180度異なる。第二次世界大戦を扱った歴史教科書、テレビ・ドキュメンタリー、劇映画、書籍などで前面に押し出されているのは自国民の被害ではなく、ナチス・ドイツの暴力支配が、欧州の他の国民やユダヤ人、シンティ・ロマらに与えた被害である。45年にアウシュビッツ強制収容所がソ連軍によって解放された1月27日、ナチス・ドイツが降伏して欧州大戦が終結した5月8日の前後には、ナチス・ドイツによる犯罪に関する数多くのテレビ番組や映画が放映、上映される。
ドイツで新しく政権に就いた首相、主要閣僚、大統領は、必ずエルサレムのホロコースト犠牲者追悼施設ヤドバシェムを訪れ、ナチス・ドイツが殺害した600万人のユダヤ人、その遺族に対して謝罪する。つまりドイツの主要政党の政治家にとって、過去にドイツ人が行った残虐行為についての謝罪と反省は不可欠の行為である。
ドイツの司法は今なおナチスの犯罪に関与した市民の訴追を続けている。ドイツ政府は2024年末までにナチスの犯罪による被害者に対し853億6100万ユーロ(15兆7918億円)の補償金を支払い、今もホロコースト生存者たちに年金を払い続けている。
ダッハウ、ベルゲン・ベルゼン、ブーヘンヴァルト、ラーフェンスブリュックなどドイツのあちこちにある強制収容所の跡地に建てられた追悼施設や、ミュンヘンのナチス犯罪に関する資料館でも、ドイツの前世代が犯した犯罪や、市民や企業の加担の事実が前面に押し出されている。
ベルリンの連邦首相府や連邦議会に近い場所には、ホロコーストの犠牲者のための追悼モニュメントがある。1万9000平方メートルの敷地を、黒い棺のように見える大きな石の立方体約2700個が埋め尽くしている。ドイツ政府は2700万ユーロ(49億9500万円)の公費を投じて、日本で言えば永田町にあたる政治の中心地に、あえて自国の犯罪を記憶し、未来の世代に伝えるためのモニュメントを作った。
