「若者たちは、父親や祖父が犯した犯罪について、責任はない。しかし彼らは同時に、自国の歴史の流れから外へ出ることはできないということも知るべきだ。若者は、ドイツの歴史の美しい部分だけでなく、暗い部分についても勉強しなくてはならない。それは、他の国の人々が、我々ドイツ人を厳しく見る理由を知るためだ。そしてドイツ人は、過去の問題から目をそむけるのではなく、たとえ不快で困難なものであっても、歴史を自分自身につきつけていかなくてはならない」
ブラントは、他の国々との信頼関係を強固にするには、自国の歴史の負の部分と向き合わなくてはならないと主張した。戦争の当事者ではなくても、過去と批判的に対決する必要があると断言した。
アジア諸国との信頼関係に必要な過去との対決
もちろんガス室などによって約600万人のユダヤ人を虐殺したナチス・ドイツと1930~40年代の日本の犯罪を同列に並べることはできない。それでも、一部の日本軍兵士が残虐行為に加担し、「加害者」となったことは歴史的な事実である。また、第二次世界大戦の敗戦国だったという点で共通している。
筆者は2012年に香港で働いた時に、こんな体験をした。ある香港人から「私の家族は中国に住んでいたが、日本軍が侵略してきたので、財産を捨てて香港に逃げなくてはならなかった」と言われた。これを聞いて、「被害者たちは忘れないものだ」と感じた。
世界各地で地政学的リスクが高まり、超大国・米国の指導力が大きく揺らいでいる。日本にとってアジア諸国との信頼関係を深める必要性は高まっており、自国の犠牲者を弔うだけではなく、第二次世界大戦中の加害行為についてもドイツの取り組みから学べることは多いように思える。
