2026年10月15日(木)

商いのレッスン

2026年10月14日

 最初に集計した1月23日の取扱個数は、わずか11個。それが78年度には1000万個、83年度には1億個を超え、直近1年間では約19億個を扱うまでになっている。

 重要なのは、「業界と違うことをしよう」と考えたことではない。小倉社長が徹底して顧客の側から考えた結果、業界とは違う答えになったことである。小倉社長が掲げた「サービスが先、利益は後」も、顧客価値を先に置く思想だった。

 しかも、これは思いつきではない。73年に米国で運輸大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の集配を見て、荷物の密度を高めれば小口配送は成り立つと確信し、75年には「宅急便開発要綱」を役員会に提出している。常識を疑うことと、根拠なく逆張りすることは違う。顧客の不便を見つけ、採算が成り立つ仕組みにまで落とし込んだから、イノベーションになったのである。

アイリスオーヤマは流通の常識を組み替えた

 アイリスオーヤマにも同じ構図がある。同社はもともとプラスチック製品メーカーで、当時はメーカーから問屋を経て金物店や種苗店へ商品を流すのが一般的だった。ところが、生活者に喜ばれる新しい園芸用品をつくっても、新商品は需要が読みにくく、季節や天候による変動も大きい。問屋にとって在庫リスクが高いため、従来の流通では店頭に広がりにくいという壁があった。

 そこで80年、同社はあるホームセンターと直接取引を始めた。直接取引を広げる中で、製造だけでなく問屋機能も自社で担う「メーカーベンダー」へと発展していく。

 単に中間流通を省いたのではない。店頭の販売情報を早く把握して生産や在庫に反映し、営業担当者が売場で生活者の反応をつかみ、それを商品開発へ戻す仕組みをつくった。販売情報、生産、物流、商品開発をつなぐことで、生活者との距離そのものを縮めたのである。

 アイリスオーヤマ自身、メーカーベンダー化によって生活者に近づき、「ユーザーイン」の商品開発が前進したとしている。つまり、流通の常識を破ることが目的だったのではない。生活者に近づくために流通を組み替えた結果、独自のビジネスモデルが生まれたのである。

 ヤマト運輸とアイリスオーヤマに共通するのは、競合を無視したことではない。判断の起点を「同業他社」ではなく「顧客」に置いたことである。そういえば、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の言葉にも「業界は過去、顧客は未来」というものがある。

横並びからイノベーションは生まれにくい

 ここで、「他社と違えばよい」と受け取ってはいけない。違うこと自体には価値はない。顧客に支持されない違いは、単なる独りよがりである。

 大切なのは、何を判断基準の最上位に置くかだ。同業他社を見ていると、問いは「他社は何をしているか」になりやすい。顧客を見れば、「何に困っているか」「まだ満たされていないことは何か」に変わる。問いが変われば、答えも変わる。


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